黒冬狂想曲 1

「はいはい、皆さん!景気はどうですか!?」

見なれた顔がにゅ、とテーブルの下から現れる。
いきなりの事だったので、一瞬固まったガリークランの面々であったが、 すぐに各々の自由時間を寛ぎ始めた。

年の一番終わりの寒い時期に、最も寒いモーラベルラへ行こうと言ったのはアデルだった。 寒い場所はその場所なりにきっちりと寒さ対策をしてあり、冬の味覚が味わえたり、ライトアップされた整った街並と雪の美しい冬景色を見る為に、年越しをここで過ごす旅人も少なくはなかった。 モーラベルラは都会好きのアデルにとってフロージスに並ぶ、好きな街の1つであった。

大所帯のガリークランが泊れる宿で、しかも年末ということでシドが少しリッチ目のお宿を取ってくれたこともあり、皆、とてもいい気分で寛いでいたのだ。
彼等は突然現れた妖しい人物を取りあえず無視する方向に決めた。

「ちょ、いきなり無視ですか?皆さん!」

ガリークランの対応に慌て出したのは、ご存じ、ボンガ編集長だ。

「編集長、俺達は休暇中だ。今、そちらさんの依頼は何も受けてなかったと思うが?」

見兼ねたリーダーのシドが声を掛けると、編集長はその言葉に飛びついた。

「えぇ、そうですね。ガリークランにはすっかりお世話になっちゃって…。 ここ一年、本当にお世話になりました!」

シドの手を取り、へこへこと頭を下げる編集長を見て、皆、この一年を振り返る。
クランというやつは、もちろん人の役に立つ事で成り立っているのだが、 普段戦っているばかりの為か気の強い連中が多い。 ガリークランといえば女子供も多く、父親のようなシドを中心としたアットホームな雰囲気が強い。 その話しやすさも相まって、ボンガ編集長は好んでガリークランに依頼を頼む事が多かった。 しかも妙な依頼が多く、得られる収入も少ないので、ガリークランは最早、 慈善活動のようなつもりで受けていた。

困った顔をしているシドに助け舟を出そうと、ルッソが声を掛けた。

「編集長、今月はもう黒冬号の依頼受けたよ」
「はい、その節はお世話になりました!」
「じゃあ、もう俺達に用は無いよね!これからアデルとハーディで雪だるま作ろうと思っててさ。 そういう訳だから…」
「それは楽しそうですね〜!!でもこっちは楽しいことなんて何もないんですよ!」

そ〜らきた!
何かしらの面倒事を持ってきたのだろうとは検討はついていたが、さてはて。

「黒冬号の売れ行きは結構よかったのに今年はウチの会社、冬のボーナス無しなんですよ!? これではトミクジすら買えません!!」
「…普段が売れてないからじゃない?」
「ただでさえ発行部数を伸ばしているユトランドプレスが『年越し特別号』を発行するんです! しかも内容は『楽しく冬を過ごすラブリーボイス』ですよ!?私は絶対手に入れますっ!!」
「…はぁ、そうですか(トミクジ買わないクセにライバル会社の発行物は買うんだ)」

混乱で言ってることがあやふやな編集長は置いておいて、なんとなく依頼内容が見えてきた。

「つまり、ユトランドプレスに対抗できるようなものを作りたいんだね?」
「おぉ〜!!さすがルッソ君、話しが早いね!」
「やだよ、めんどくさい」
ルッソは描きかけていた『雪だるま完成予想図』の続きを描き始めた。

「クポ…」
ハーディはお腹一杯で既に夢の中らしい。

「やっぱり休めるときはちゃんと皆に休ンで欲しいしなぁ」
シドは馴染みのパブの親父から譲ってもらった秘蔵酒の栓を抜こうとした。

「折角、人が寛いでるってのに女の子に『足臭いですね』なんて言わせないでよね」
入れたてのハーブティーを冷ましながら飲むのはアデル。

「ちょ…誰が足臭…!!いや、まぁいいでしょう。 それよりインタビュー先にガリークランのアシスタントと共に伺うともう言ってしまったんですよ」
「えぇ〜!また勝手な事して!」
「私の沽券の為にも…!一緒に行ってくれますよね?」

それぞれが顔を見合わせる。どうもいつものパターンなような気がする。 ここはこれからの為にも編集長を甘やかせず断るべきか。

「取りあえず依頼受けるかどうかは、誰にインタビューするのか先に聞いてからでもいい?」
「あの有名な賞金稼ぎクラン、バウエン一家のバウエンさんですよ」
「え〜!この年末の慌ただしい時期にそんなしょうもない事の為にバウエンに時間取らせたワケ?」
「しょうもないって…ちょっと!」

何やらブツブツ言っている編集長はどうでもいいが、どうやらバウエンをすでに待たせてあるらしい。 これからの彼等との関係の為にもこれは断る訳にはいかなかった。 編集長は自分達の関係を分かった上で依頼してきたのだろう。こういうところだけは抜け目ない。

「分かった。俺ちょっと編集長と行ってくるよ。久し振りにバウエン一家とも話したいし」
「あ、有難う、ルッソ君!」
「ちょっと待てルッソ!バウエンの所に行くならコイツも持っていけ!」

シドは今、栓を抜こうとしていた酒をルッソにほうり投げた。 酒瓶はゆっくりと弧を描いてルッソの右手に納まった。

「来年も宜しく頼むって伝えてくれや」
「うん、分かった。ついでにシドが好きそうな酒があったら買ってくるよ!」

こうしてルッソは編集長と共に、アシスタントとしてバウエン一家のいるパブへと向かった。

パブは最後の仕事をし終えたクラン達が仕事の後の一杯を飲んでいたり、 忘年会を始めようとする会社帰りのグループなどで賑わっていた。大きい大人に混じって、ルッソはあちこちぶつかりながら歩いていた。

(すごい人ゴミだな…。周りが見えないよ。お酒クサイし、早く仕事して帰ろ)

大人ばかりのパブを見てルッソはふと思った。
こういう光景はあまり見た事がない。パブに来ても夕食時間が過ぎる頃には宿に帰ってる事が多いし、宿で食べる事もある。大人がお酒を飲みにくるような時間にルッソはパブに来た事が無かったのだ。

おそらく今まではシドが子供や女性のメンバーに気を遣って、こういうところに来ないようにしていたのだろう。その事にここに来る事で気付き、また感謝した。

(シドも本当はこういうところに来たいんじゃないのかなぁ。 俺がもっと大人だったら一緒にお酒飲んだりする相手になれるのに)

ルッソが考え事をしながらボーっとしていると、急に後ろから強い力で引っ張られた。

「うわっ!な、何だ!?」
「よぉ、若いのぉ、久し振りだなぁ…!!」
「あ。チッタの親方!親方ンとこも今日、仕事終わりなの?」
「かーーー!!まだ武器の扱い方、わからねぇってか? …ったくしょうがねぇ。今からおれっちが教えてやらぁ!」
「そ、そんな事言ってないし!それにもう充分教わったよ!」

親方はお酒が充分すぎる程回っているらしく、ルッソの肩に手を回したまま、離そうとしない。

「駄目だ、駄目だぁ!腐った根性、叩き直してやらぁ!」
「わ!もう離してよ。俺、仕事でここに来たんだから」
「…ちょっといいか?」

チッタとルッソの間にスルリと褐色肌の美しい手が伸びる。

「すまないが…ルッソの根性は私が直すこととしよう」
「ヴィスさん、久し振り…!てか俺、親方に捕まっちゃって…」
「そうか、そうか。若いのもおれっちより美人のヴィエラの方がいいってか…」

どうやら親方は泣きに入ったようだ。 今の内とばかりにヴィスがルッソを親方から引き離した。

「有難う、ヴィスさん。助かったよ」
「編集長がひとりで席にやってきたのでな。探しに来たのだ。彼は君を見失って慌てていたぞ。 …まぁ、こんなことだろうとは思っていたが」
「こういうとこ、始めてでさ。ちょっとウロウロしちゃったんだ。」

今度は迷子にならないように、とヴィスはルッソの手を引いて店内を歩いた。

(なんでヴィスは迷子にならないんだろ。アレかな、アサシンの特性かな)

そうこうしている内にバウエン一家の面々と編集長のいる席が見えた。バウエンが片手を上げて挨拶を送ってきたので、ルッソはペコリとお辞儀をした。隣で編集長が立ち上がってブンブン手を振っている。

「いや〜、心配しましたよ、ルッソ君!やっぱり私がついていなければ駄目ですねぇ」
「お待たせ、編集長。インタビューもう終わっちゃった?」
「いや、実はですね…。用意していた質問の用紙を忘れてきてしまって…」
「いつものパターンだね。編集長得意のアドリブでなんとかしなよ」

編集長はいそいそとルッソを手に取って少し離れたところで耳打ちした。

「そうは言ってもね、相手は手荒い賞金稼ぎですよ?こ、怖いじゃないですか」
「バウエン一家が?大丈夫だよ。こっちが手を出さなければ、暴力に訴えるような人達じゃないから」
「ルッソ君が質問してくれません?仲良しなんでしょう?」
「仕方ないな。じゃ、適当でいい?」

ルッソと編集長はその場で打ち合わせると、バウエンの席に戻ってきた。

「なんだ、何かややこしい事するのか?」
「ううん。簡単な質問に答えてくれればいいよ。 それより、バウエンこれお土産。シドが来年も宜しくってさ!」

バウエンはルッソが渡した酒を手に取ってまじまじと見つめ、ホォ、と感嘆の声を洩らした。

「なかなかいい趣味してるな、シドのやつ。おいルッソ、有り難く頂くと礼を言っておいてくれ」
「うん…。それでね、バウエン。インタビューの前にちょっとお願いがあるんだけど」
「なんだ。込み入った話しか?」
「俺達ガリークランはさ、シド以外のメンバーはみんな子供とか若いヤツラばっかなんだ。俺とかシドと酒に付き合ったりできないし…。今度シドを飲みに誘ってあげてよ。」
「あぁ、そんな事か。構わないぜ。シドは仲間に慕われる、いいリーダーなんだな」
「うん!!」

ルッソの満面の笑みが微笑ましく、一家からは笑いがこぼれた。

「インタビューもいいが一緒に乾杯しようぜ。酒の代わりにジュース奢ってやるよ」
「わぁ、やった〜!ラッキー」
「そこの編集長さんもどうだ?」
「あ、私もですか?は、はい。喜んでおつき合いさせて頂きますっ!奢りなら!!」

ローアから会社の経費で落としなよ、というツッコミが入ったが、編集長は聞かなかったことにした。 全員の飲み物が揃ったところで、それぞれの今年の活躍を労い、来年の互いの健康とクランレベルの向上を祈って乾杯した。


続き


(07.12.25)



戻る