ささやかだが始めての『飲み会』な雰囲気を楽しめたルッソは、上機嫌でメモ帳を開いた。
「じゃあ、さっそくインタビューするよ」
「おぉ、何でも聞いてくれ!」
バウエンを始め、他の一家のメンバーも御機嫌でやり取りを見ている。ボンガ編集長だけが、今だ解け込めず、モジモジとしている。ルッソに任せたとはいえ、取材内容が心配なのかもしれない。なにしろ、会社の売り上げが掛かっているのだ。その様子に、終いにはバウエンに「便所に行ってこい」とまで言われてしまった。
「編集長、取材始めるんだから、カメラ出しておかないと。フタを取るのを忘れないようにね」
「あ、そうですねっ!」
以前、編集長が真っ黒な写真を撮って取材にならなかったことをルッソは覚えていたようだ。
「何聞こうかな〜。じゃあ、バウエン一家が得意としている作戦とか戦闘方法ってある?」
「そいつを言っちまったら、敵に俺達の弱点とかバレバレになるだろ?まぁ、そんな弱点など無いが。仕事に支障ができそうな質問はカンベンしてくれよ」
「分かった。じゃあ、俺が今まで一家と戦った経験上で勝手に書いておくからね」
何やらいそいそと書き出したルッソに、一家の面々は顔を見合わす。
「お、おい。何書いてんだ?」
「んとね、まず最初にヴィスさんがやたら透明で動きまわって『悪夢』をミスして、ローアがなりふり構わず突っ込んできて…。バウエンは気付いたら『バックドラフト』で自滅してるでしょ?で、エンゲージ中盤でやっとツィーゲルの番が回ってくるけど、MP無くて何もできず、ってパターンじゃない?」
「ば、馬鹿そんなコトあるか!」
「そうそう、その時は偶然だよ!」
「みっともないから、そんな事書くなよな!仕事無くなるだろっ!!」
皆から猛反発を食らい、ルッソは「そう?」と言って手を止めた。
「そういえば…。バウエン一家はどんな仕事でも引き受けるんでしょ?…汚い仕事とかも」
「そうだ。仕事だからな」
「お金さえ払えば、悪い人からの依頼でも受けるの?」
「その通りだ。賞金稼ぎが仕事選んでいたら、依頼人からの信用も無くなるからな」
「…ふうん」
少しがっかりした風にメモを取るルッソにツィーゲルがこそっと囁いた。
「引き受ける相手は前もってある程度調べるぜ。あんな事言ってるが、バウエンはろくでもない依頼主相手だとワザと失敗したり、上手くはぐらかしたりもする。そういう依頼主だと、仕事を完了した後に口封じにこっちを潰しにかかろうとする奴もいるしな」
「そうか、そうか。うんうん!」
ルッソはそれを聞いてまた御機嫌になったようだ。メモ帳を見ると『♪』マークやらが書いてある。
「じゃあさ。俺達ガリークランの事、どう思ってる?」
「あぁ〜。前もそんな事、聞かれたな。なかなかやるんじゃねぇか?」
「あ!そうか、月刊ボンガ青秋号で褒めてくれてたよね!俺、嬉しくて保存用に1冊買ったもん」
「ふふん。俺はなかなか人を誉めねぇぜ?」
「で、ガリークランの中で、一番勇敢で格好よくて頑張ってる人は誰だと思う?」
見るとルッソがニッコニコして返事を待っている。
まぁ、ここは自分の名を呼んで欲しいところなのだろう。バウエンはううむ、と唸った後で、
「…っと。やっぱりフリメルダかな?」
「えぇ〜?なんでそこで女の人なの?バウエンのえっち!」
「ごく真面目に正直に答えたんだって。お前も頑張ってるぞ、ルッソ」
ルッソ君、ルッソ君、と袖を引っ張るボンガ編集長(居たのか)が横やりを入れてきた。
「あまり個人的な質問ばかり止めて欲しいな、と。一応万人が見る情報誌ですから」
「編集長はどうなの?ガリークランの誰がいいと思う?」
「はい?そうですねぇ。私も剣聖さんの隠れファンなので…。秘蔵の隠し撮り、見ます?」
「そうか〜。やっぱ格好イイもんな、フリメルダさん。俺も認められるように頑張ろ!」
取りあえず、編集長の隠し撮りは没収しておいたルッソは、質問する事が思い付かないので、過去の月刊ボンガの『ラブリーボイスにインタビュー』の回を参考にすることにした。本を斜読みしつつ、ルッソは質問を続けた。
「それでは〜…。バウエンの『スリーサイズ』を教えて下さい」
「それってよぉ、教えてやってもいいが…。ラブリーボイスみたいに可愛いお姉ちゃんならともかく、こんなオッサンのを知って嬉しい奴いるのか?」
「それもそうだね。質問って案外難しいなぁ」
「ねぇねぇ、アタシのスリーサイズ教えてあげようか?」
ラブリーボイスに対抗心があるのか、嬉々として乗り出してきたのはローア。確かに見た目はカワイイのだが。チラリとローアの胸元を見たルッソがぼそりと呟いた。
「…別にいい。興味ないもん」
「ちょ、ちょっと何げに失礼だよ、アンタ!」
ルッソに『不意打ち』をかまそうとしたローアを隣のヴィスが宥める。ルッソはというと、他にいい質問はないものか、とボンガのページをめくりつつ首を傾げている。
「じゃあ、次。バウエンの好きな『異性のタイプ』を教えてよ」
「そうだなぁ…。こうグッとくるような、ボン、キュッ、ボンとした…」
バウエンは両手でヒョウタンのような曲線のくびれを表現していたのだが、ルッソはそれを見もせずにメモを書く。
「はいはい、…好きなタイプはフリーゼさん、と」
「ちょ、ちょっと待て!そこまでハッキリ言ってねぇだろっ!?」
「でも、そうなんでしょ?俺たち前にエンゲージで見たもんね、その愛妻家っぷり」
「…ふん。勝手にくっちゃべってろよ」
バウエンは真っ赤になって、照れ隠しに酒を煽ってそっぽを向いてしまった。
一家の面々もその様子が可笑しくて、クスクスと苦笑している。
「もうこれくらいでいいか!あとは適当に編集ってことで」
「ルッソ君、あんまり取材してないコトないかい?」
「せっかく、一家に会いに来たんだもん。もっと騒いだりしたいじゃん」
「おお、ルッソ!好きなだけ食って飲んでけ!」
慌てるボンガ編集長を余所に、ルッソと一家は大いに盛り上がった。
「仕方ないですねぇ…。じゃあ、最後に写真一枚取らせて下さいよ」
「おっけ〜!」
言われたルッソはバウエンと肩を組んでピースをし、その周りを一家が取り囲んだ。
「ハイ、ポーズ!!」
*
かくして、『月刊ボンガ年末特大号』は無事発売された訳であるが。
発売日、パブで寛いでいたバウエン一家はそれを手に取って中を開いた。
ページを捲るバウエンはそれを見て目を丸くした。
「なんだコリャ、取材内容何も載ってねぇじゃねぇか」
どれどれ、と中身を見た一家の面々は、その内容を見て呆気にとられた。
確かにいくつか質問されたが、それが載っていない。
あるのは最後に皆で撮った写真と、編集長の意味不明な言葉の羅列が載っているのみだった。
「またメモを無くした、のパターンかよ」
「でも、この写真よく撮れてるじゃん。気に入ったよ、アタシ」
ローアが指している写真はルッソと一家が満面の笑みでアップで写っている写真だった。見るとそのときのパブのざわめきや匂いが思いだされる。慌ただしい取材だったが、皆、正直悪く無い時間だったと思っている。
だが、その本を見ているのはバウエン一家のみで、周りの人間は皆、『ユトランドプレス』を手に取っている。そちらは表紙に冬服を着た笑顔のラブリーボイスが写っており、本のデザインも美しかった。
「まずよぉ、『月刊ボンガ』は題材に俺達を選んだ地点で終わってたよな」
「なんで!?ラブリーボイスが可愛いから?バウエン一家だって女の子成分あるじゃん!アタシとかヴィスとか!」
「う〜ん。確かに女だが、殺伐としてるしな…」
ツィーゲルの意見にローアの翼と尻尾がへにょりと垂れ下がる。確かにアイドルの萌えには適わないと悟ったのだろう。
「編集長も、ガリークランに声掛けるなら、フリメルダ特集でもすりゃ良かったんだ」
「バウエン。アタシ、なんかくやしい」
ローアはルッソと一家の写真が表紙になっている冊子をぎゅ、と抱きしめてしょげている。ヴィスがその頭をよしよし、と撫でていた。バウエンは改めてその表紙を見た。
(フン、ルッソの奴、なかなかいい顔するじゃねぇか)
バウエンはすっくと立ち上がり、カウンター越しのパブのマスターに声を掛けた。
「おい、マスター!そこに積んである、『月刊ボンガ』全部頂くから後で包んでおいてくれ!」
(07.12.26)