そして、生かす道。1


 もっと他の生き方をしていれば、別の出会いがあったのかもしれない。
 別の生き方をしていれば、出会わなかったのかもしれない。

 様々な要素が絡み合って、そこで出会えたのだと思う。
 それが運命なのか、偶然なのか。
 幸か不幸かと考えるのは、その人間次第だ。

 少なくとも、私は一一一一。

デルガンチュア遺跡では、今の今まで剣士ギィと剣聖フリメルダの一対一の対決が行われたところであった。 結果、ギィの強さは目を見張るものがあったが、さすがは『剣聖』と呼ばれるだけあってフリメルダが勝利を収めた。
いや、彼等にとってこの勝負をすることに意味があり、そもそも勝ち負けは問題ではなかったのだが。

敗れたギィはその場を立ち去ろうと身を翻した。 負けた事も納得できたし、剣聖に挑戦できたことで彼に悔いは無かったのだ。 何より、本人はいつこの世から消えてしまうか分からない身であったからだ。

戦いの行方を見守っていたガリークランの者達も、去りゆくギィの背を、その歩みをじっと見送った。 誰もが、彼の生きてきた道を忘れないように。その姿を目に焼き付けるように見守っていた。

だが、その中からギィの背に向かって駆け出す者がいた。 皆が止める間もなくギィに追いつくと、その背に両手を伸ばしてそのまま後ろからギィの身体を抱きしめたのだ。

「ギィさん…!もう少し。あともう少しだけ、あなたの時間をいただけませんか…!!」

抱きつかれた勢いに少し前のめりになったギィはゆっくりと背後を見遣った。 その背を包む腕は微かに震えていた。気怠そうに呟くギィの声には力がない。

「剣聖。分かっていると思うが、俺には時間がない」
「あなたの残りの時間…。それを一緒に過ごす訳にはいきませんか…!」
「いつまで身体がもつか分からん。できれば醜い姿をあなたにだけは晒したくはないのだが」
「決してそんな風には思いません…。まだ…。まだギィさんとは話したいことが…」

それ以降は声にならなかった。周りの誰もが言葉を発しない。 暫くギィは自分の背に顔を埋めて、耳を真っ赤にさせたフリメルダを眺めていた。 そのうち、ぼそりと彼女にだけ聞こえるように、だがはっきりと告げた。

「………いいだろう」

デルガンチュア遺跡はいつもより増してミストが濃く渦巻き、ギィとフリメルダをざわり、と包み込んだ。

デルガンチュア遺跡の出来事より少し後一一一。
タルゴの森のパブでは、先に依頼から帰ってくる仲間を待つガリークランのメンバーが滞在していた。

ギィはガリークランの仲間とたいした交流をするわけではないが、揉め事もなく共に行動をしていた。 フリメルダとの戦いの後、そのダメージが回復すると弱った姿を見せる訳でもなく、傍目にはいつもと変わらぬように見えた。少なくとも、死に瀕する人間には見えない。 その様子を見て、フリメルダはとりあえずホっとしていた。 できれば2人で話す時間が欲しかったが、きっかけが掴めずにいた。

(今なら話せるかも知れない…!)

フリメルダは仲間から少し離れて外の景色を見ながら座っているギィのところへ行こうとすると、部屋の扉が開いて、そこには妙な表情をしたルッソが突っ立っていた。 その姿を見たハーディが、出迎えようと喜んで駆けつけていった。

「おかえりクポ〜!…変な顔して何かあったクポ?」
「う、うん。さっきそこで新しい仲間が入ってきたんだけどね」
「わ〜い!ガリークランに仲間が増えるクポ!早く紹介して欲しいクポ!」
「ほら、あそこの男の人だよ」

ルッソはロビーのところでヴァンとパンネロが話をしている相手を指した。ヒュムの男性は空賊2人組とは知り合いらしく、大げさな身振り手振りで話をしていた。

「………あれ?」
「どうかした?ハーディ。ひょっとして知っている人?」
「う〜ん。どこかで見たコトあるような、ないような、クポ」
「ロザリアの皇子様だって。なんかそんな感じじゃないよね」

件の皇子様はこちらの視線に気付いたのか、スっと掛けていたサングラスを降ろし、目配せした。

「な、なんかちょっと変な感じだろ?」
「う〜ん、キザなキャラだクポ。まぁ、でも悪い人ではなさそうクポ」
「ちゃんと戦えるのかなぁ?」

パンネロの案内でコチラへとやってきた彼をルッソとハーディが見上げる。近くで見ると背が高い。 すると彼はハーディの側で跪いて、ちょうど同じ目線の高さで話せるようにし、その手を差し出した。

「初めまして。私、名をアルシド・マルガラスと申します。 暫くこのクランに厄介になりますので、どうぞお見知りおきを…」
「どうもよろしくクポ。モグはハーディ、歌が得意クポ」
「おや?モンブラン氏によると、下にはガーディという妹がいるとお聞きしましたが?」
「モグは弟の方クポ。ガーディは今、チョコボ屋で忙しく働いているクポ」
「なんだ、男ですか。…あ、パンネロさん、他の仲間も紹介してくださいね。できれば、女性の方中心で」

ハーディが男だと気付くとすっくと立ち上がり、アルシドはパンネロに向き直った。 仲間達の方へ行くアルシドを見やりながら、パンネロはこっそりハーディに耳打ちした。

「ごめんね、ハーディ。たぶん、悪気はないから」
「クポ〜。それにしても、妹と間違うなんて酷いクポ〜。モグ、そんなに女の子っぽくないクポ!」

ハーディの抗議を背に受けて、パンネロはアルシドの後を追った。 当のアルシドはクランのヴィエラやグリアとすっかり馴染んでいるようだ。 ソファでくつろぐ女性陣の間に長い足を組んで座っていた。

「さ、さすがはアルシドさん…。私が紹介するまでもないですね」
「いやぁ、パンネロさん。ガリークランはあなたを筆頭に素敵な女性ばかりで、目を奪われますねぇ」
「あ、まだ紹介していない人が…」

パンネロがすぐ後ろに通りかかったフリメルダに気付いて、声を掛けた。 ギィの側に行こうとしていた彼女はアルシドの存在に気付き、ぺこりと頭を下げた。

「新しいお仲間ですね。初めまして、フリメルダ・ロティスです」
「………………」

何だろうか、この間。
暫くアルシドとフリメルダの間に妙な沈黙が流れたと思うと、いきなりアルシドは頭を抱えて蹲った。 突然のアルシドの奇行に周りの仲間達はどうしたものか、とおろおろしていた。

「…うぅ〜ん」
「どうされました?調子でも悪いんですか?」
「いえいえ、こんなところで未来の我が妻との出会いがあるとは思っておりませんでしたので」
「はい?」
「いかがですか?フリメルダさん。近い内にぜひ我がロザリアが誇る絶景、琥珀の谷を見にいらして下さい。そこであなたを私の両親に紹介致します」

ちょ、早っ!!
周りの仲間がドン引きの中、アルシドがどこに持っていたのか手にした一輪の花をフリメルダに差し出した。 フリメルダはにっこりと微笑んで、それを受け取った。

「まぁ、有難うございます。面白い方ですね」

アルシドの濃い告白を天然でさらっと受け流したフリメルダに、一同は変な汗が流れた。 仲間内にこれから先、なにげにこの変わり者の皇子からフリメルダを守らなければ、と妙な使命感と連帯感が芽生えたようだ。

「あぁ〜、紹介は無事済ンだようだな。みんな、アルシドと仲良くしてやってくれよ?」

パブでクラン依頼の書類手続きを終えたシドが、部屋に入ってきた。 紹介は無事でも、フリメルダは無事に済みそうにない、と声を大にして言いたい仲間であったが、アルシドから何かしらの圧力を感じて、皆黙っていた。

「みんな揃った事だし、メシでも食って休んでくれ。…アルシドは庶民の食事でも大丈夫だな?」
「どうぞ、お構いなく。食事以外のもので十分満たされておりますので」

そう言いながらパブに設置されたバイキング形式の料理を取り分けているフリメルダを、うっとりと眺めていた。

フリメルダは色とりどりの料理を皿に並べながら、鼻歌を歌っている。その後ろにはアデルが一緒に並んでいた。

「ちょっと、取りすぎじゃないの?フリメルダ。太ってまた動くスピード落ちても知らないわよ」
「あ、あれは太ってるからじゃありません。つい、マイペースになってしまって…」
「あと、アタシが食べる分無くなるから、その辺にしといてよね」
「す、すみません。私はそろそろテーブルに着きますので」

フリメルダは空いている席を探して周りを見回した。 先程見た窓際の席でギィがひとりで食事をとっていた。

(さっき話そびれたし、ギィさんの隣に座らせてもらおうかな…)

「あ、あのギィさ…」
「あぁっと、フリメルダさん!私の隣が空いてますよ!さぁさぁ!」

アルシドがフリメルダの後ろから現れたかと思うと、ギィの隣のテーブルに腰をおろした。 自分の横の席に総レースの付いた大判のハンカチーフをファサっと置いて、いかにも其処に座ってくれとでも言うかのように示す。

フリメルダはどちらに座ろうかとおろおろしていたが、せっかくアルシドがわざわざ席を空けてくれたのを断るのも失礼かと思い、そこに座ろうとした。

「はいはい、料理を取ったらさっさと座ってちょうだいね!」

後ろからアデルが続いてやってきて、フリメルダが座ろうかと思っていた席に強引に割り込んで、フリメルダをぎゅむっとギィの居るテーブルの方へ押しやった。

「きゃ!ア、アデル…」
(ちょっと、何やってんのよ!ギィに何か言いたい事があったんじゃないの?)

アデルは強めに耳打ちすると、フリメルダの背中をバン、と叩いた。 その勢いでわざとではないにしても、フリメルダはギィに寄りかかる格好になってしまった。 じ、とギィの銀色の涼しげな瞳が横目でチラリとフリメルダを見やる。

「す、すみませんっ、ギィさん…」

そのアデルの一連の行動をじっと見ていたアルシドは、妙に柔らかく言い放った。

「アデルさん…。今の行動は私へのヤキモチと受け取ってもよろしいでしょうか?」
「あなた、前向きねぇ…。物事の不純さはともかく、見習うわ」

呆れたアデルはさっさと目の前の料理を口に放り込んだ。 アルシドも隣に女の子が座ったことで満足したらしく、それ以上フリメルダに絡んでこなかった。

いざ隣にギィがいるとなると、フリメルダはそわそわしてなかなか話を切り出す事ができなかった。 ギィはというと、先程のドタバタでコチラに目線をやってからは無言で食事をしていた。 フリメルダが側に居ることは気にもしていないようで、目の前の食事をつついては口を動かすだけだった。

なんとなく先程の事もあり、まともにギィの顔を見られないフリメルダは、ギィがつついている皿に目をやった。

(ギィさん…。あまり食べてない。やっぱり身体の調子が悪いのかしら…)

ギィが料理を取った量は、フリメルダの皿の3分の1も入っていなかった。 どう考えても成人男性の採る食事量とは思えない。

フリメルダは自分から一緒に来て欲しいと言ったものの、ギィの身体の事を思うと不安で胸がいっぱいになった。 やはり自分の我が儘で無理をさせてしまったのだろうか。

このとき、結局フリメルダはこれ以上ギィと会話をする事ができなかった。


続き


(09.4.18)



戻る