新しい年に感謝を込めて 2

大荷物を抱えた俺は、次の場所へ移動しようと暗い通りを歩いていた。
…何となく後を付けられているのに気付いているンだが。さて、どうするか。 次の角を曲がったところで問いつめてみるか。

「………うわっ!!」
「やっぱりアンタか」

カメラ片手にコソコソ付いてきていたのは、歩く障害トラップ、口だけLv.99、居ればそれだけでロゥ追加と同じ効果…は言いすぎか。毎度おなじみボンガ編集長だ。 とにかく一緒に居てあまり良いことがあったためしの無い相手だ。
悪気はねぇんだろうけど、それだけに余計にタチが悪い。

「…俺に付いていたって、何もフォーカスできねぇぜ?編集長!」
「いや、その〜。実はですね」

もじもじしながら、俺の機嫌を伺っているようだ。
何なンだよ。気持ち悪ィな、おい。

「先程、ラブリーボイスの楽屋から出てきましたよね?何かあったのかな〜、と」
「あいつらに囲まれてたっぷりイチャイチャしてきたが?」
「シド…!!ここで会ったが100年目!ラブリーボイスファンを代表して今、あなたを討つ!!」
「…冗談だ。連中から楽屋に呼ばれてて、新年の挨拶をしただけさ。あとアンタじゃ俺を倒すのは無理だと思うぞ」
「そ、そうなんですか?」

いつもは鈍くさいクセに妙なところで鼻が効きやがる。もっと事件とかでこの効果があれば、月刊ボンガも優秀な雑誌になっただろうに。今だ疑わしい目で見ながら、ヤツは俺に近寄った。

「で、何の用だったんですかっ?」

ここで適当な事を言うと来月号で俺が大悪党に仕立て上げられてしまう。しょうがねえな…。 俺はゴソゴソ袋を漁って、チラっと中の抱き枕を見せてやった。

「挨拶に行ったら土産を貰ったのさ」
「お…おぉ!これはファンクラブでもなかなか手に入らないプレミア抱き枕! しかも彼女達から手渡された、ということは指紋が付いている可能性も…!!」

その反応に呆れて見ていた俺の手から許可無く取り上げ、枕をギュ、と抱きしめる編集長。

「いいですねぇ、シド。これはとてもいい品ですよ!」

いいから、その手を離せよ。って言ってももう無理そうだな。

「分かった、分かった。欲しけりゃやるよ。…その替わり、今年はもう無理な依頼はせんようにな」
「わぉ!さすがユトランド最高の優秀ガリークランのリーダー!有り難くお年玉を頂戴します!」

やる予定のねぇ奴にまで、やってしまった。まぁ、いいか。 今年もこのおっさんには手を焼くンだろうなぁ…。 編集長はもう俺には興味を無くしたようで、さっさと行ってしまった。
俺も身軽になったことだし、さっさと用事を済ませてしまおう。

港の側では潮の香り。波止場にはまだ初日の出を見にきた観光客が留まっているようで、人々で賑わっていた。
俺とはいえば、潮の香りを嗅ぐと『あの頃』の自分を見失いかけていた日々と『アイツ』と過ごした時間を思い出す。良きも悪きの胸をチクリと刺す何かが、この場所にはある。 必要以外にこの町には来ないようにはしているんだが…。

ふ、と暗がりを見ると見覚えのある2人。あいつらは…!!

「………いきなり奇襲を掛ければカミュジャの者達も油断している筈だ。ここを一気に叩く」
「そうね。できるだけの事はしましょ」
「そう、上手くいくかな…?」

連中の後ろから気配を殺して声を掛けてみた。殺気立っていたンで、気軽に話し掛けられなかったンだな。 勢いよく振り返ったのはかつて剣を合わせた事もある戦闘集団の幹部。

「あなたはガリークランの…」
「シドだ。…カミュジャの事をどこまで調べたかわからンが、今のお前達に適う相手じゃない。 無駄に喧嘩仕掛ける相手じゃねぇぜ、デュアルホーン」
「それで?アタシ達をどうするワケ?カミュジャにチクるつもりだったら…」

スーツの襟元から攻撃専用の角が鋭く光るカードを取り出そうとしたセレブの手をマクイスが目で制した。

「…マクイス」
「止めておけ、セレブ。彼は自分の事を省みず、ひとりでも我々を止めにきた。気遣って止めたつもりでも逆に我々の手に掛けられる危険があったにも関わらず、だ」
「カミュジャとはいろいろあってな。どれだけ危険な存在かは自分がよく分かっているつもりだ。 お前らを馬鹿にしてるつもりはねぇが、歯が立たんだろう」
「シド、お前の気遣いに感謝しよう。それでも、行かねばならぬときがある。…争いのない世界を作る為に諦める訳にはいかん」
「その為に今、自分を無駄に犠牲にする事はねぇ、と言ってるんだ。それに…」

俺はここからは少し離れた波止場の方を見遣った。観光や里帰りにやってきた家族連れや走り回る子供達の姿が見える。

「お前らの『争いのない世界』とやらが成就する為ならば、ああいった関係のないユトランドの民が巻き込まれて被害にあっても構わねぇってのか?」
「できれば、そうはしたくなない…が」
「それでもお前達が意志を貫くというなら、俺達ガリークラン…いや、ユトランド中のクランが黙っちゃいねぇぜ?今は引くべきだ」

マクイスは暫く子供達の姿を遠目で見ていた。目線を下げたかと思うと首を左右に振り、深く溜息を吐いた。

「ユトランドでは、この時期は特別なものなのか?」
「少なくとも、新しい年を祝って気持ちを入れ替えようという時期ではあるな。俺も丁度知り合いに挨拶に行ったり、届け物をしていたところさ」
「届け物?」
「世話になった連中に感謝を込めて『お年賀』を届けるのさ」
「…そうか。良い風習だな」

そう呟くとマクイスはスっと振り返りその場を去ろうとした。 マクイスが無言で横を通り過ぎる姿を見てセレブがそっと声を掛けた。

「………良かったの?」
「確かに今がチャンスかも知れん。だが、今動いてあの子供達の笑顔を曇らせる程、急ぐ事ではない」
「フフ。そう言うと思ったわ。…シド!アタシ達の目的が達成されたら、こっちから『お年賀』を送らせていただくわ」
「あぁ、お互いの無事を祈るぜ」

俺にウィンクをしながらマクイスの後に続くセレブを見送った。
………はぁ、良かった。さすがに俺でもあの2人を相手にして無事に済むとは思ってなかったが、見込み通り理解のある相手だったな。

できれば、戦いたくない相手だ。デュアルホーンも、そしてカミュジャも、な。


続き


(09.1.19)



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