新しい年に感謝を込めて 1


 人に偉そうに言える程、人が出来た人間でもねぇ。
 人様の為に何かしてやれる程、慈善家でもねぇ。

 でも自分に出来るほンの少しの善意で他人に喜びを与えたり、
 それによって自分すら幸せになる事が出来る。

 ごく当たり前の事実を知らずに今日まできた気がする。
 そンなことに十数年くらいしか生きていないガキに気付かされたり、とかな。
 ここ数カ月のちょっとした周囲の変化で俺も変わってきたンだと思う。

 …とくにお前との出会いだ。なぁ、ルッソ。

季節は年明けの頃。ユトランドでは一年通して寒いモーラベルラに限らず、この時期は肌寒くなる。 普段はエンゲージ等で忙しいクランも、この頃になるとさすがに活動を休むところが多い。 特にガリークランは休養も大事という俺の理念から、この時期は皆にゆっくりして貰っている。

俺達は主要都市を中心に、休養と娯楽を兼ねて遊びに来ていた。 まだまだ若いメンバーの多いガリ−クランは、新年のイルミネーションに彩られた町並みを見て、心ときめかせているようだった。

やっと宿に戻った頃には夜も更け、クランのメンバーは新年を祝うパーティをたっぷり騒いで楽しむ予定で、ロビーではルッソ達がソファでくつろいでいた。

「ねぇ、さっきからシドの姿が見えないけど」
「さっき、先に部屋に入って行くのを見たクポ」

ルッソとハーディは部屋を見回して、俺の姿を探しているようだった。
…そろそろいいか。 俺は2人の様子を奥の部屋からこっそり伺っていたンだが、大きな袋を背中に隠してルッソ達の後ろからそっと肩に手を置いた。振り返ったルッソとハーディが笑顔で迎えてくれた。

「シド、その袋何?何か配達の依頼でも入ったの?」
「この時期に依頼を受けたりはしねぇよ。…何だと思う?」

ニヤリの笑った俺の問いかけに、ルッソとハーディはお互い顔を見合わせて、ニンマリと笑った。

「へへ〜。ひょっとすると、ひょっとして!」
「モグ達へのプレゼントが入ってるクポ!シドからのお年玉クポ?」

大きく頷く俺に、手を打ち合わせて喜ぶ2人。よしよし、子供らしい反応でよろしい。 俺はごそごそと袋を漁ると、2つの包みを取り出して2人に手渡した。入っていたのは真新しい武器。

「わ〜い!新しい楽器クポ!」
「サンキュー、シド!これで新しいアビリティ覚えられるよ。…今回はどうしたの?気前がいいね!」
「まぁ、去年はいろンなヤツらに世話になったからな。今年はお年玉奮発だ」
「じゃあ、これから誰かに届けてくるの?」
「あぁ、これからちょっと行ってくる。お前らはゆっくりしてろよ」
「ふぅん…」

手にした袋を担いで宿を出て行こうとする俺をルッソは何か言いたげに見ていたが、それ以上何も言わなかった。まぁ、本当は構って貰いたいンだろうな。
俺は、振り返るとその大きな手でルッソの頭をわしわしと撫でた。

「…大丈夫!そんな遅くならねぇから、みんなと待ってな」
「…うん!」

その言葉にルッソはにま、と笑うとハーディの元に戻り、一緒に新しい武器の自慢をし合っていた。
2人の様子を見て改めて宿を出て行こうと思い振り返ると…。 扉の前でとびっきりの笑顔で立っているアデルと目が合っちまった。

「シド、いつもお仕事お疲れさまっ。ところで〜…」
「ちゃんとお前の分も用意してあるからよ、その意味ありげな微笑みはやめろ」
「あたしサンタさんに新作デザインの服、20着程欲しいってお願いしてたんだけど!」
「そいつはその破産しそうなサンタさんとやらにお願いしな」

良かった、今回Xマスプレゼントやらなくて。
コイツはどこまで本気が分からン。まぁ悪気は無いンだろうが…。そう思いたい。 呆れながらも俺は、美しいリボンで包装されたプレゼントをアデルに手渡した。

「この包みはガルミア・メアね!シド、わかってる〜ゥ!ありがとっ!」

プレゼントに頬ずりするアデルを横目で見つつ、中身を見て本人の好みに合わないなどと言われる前にさっさと宿を出ていった。



「さて、と。まずはあそこか」

宿から少し離れたところにあるパブの窓から、見慣れた人影が見える。目に付くところに居て欲しいとお願いしていたから、窓際のテーブルで待機していてくれたらしい。俺は外からそのテーブル席を覗き込んだ。

「お、シド!自分のクランの面倒を見るのも大変だろうに、ご苦労なこったな!」
「なに、ガキどもはあれでしっかりしてるからほうっておいても大丈夫なンだ」

テーブルに揃った面々は、おなじみバウエン一家だ。 賞金稼ぎに年末年始も無いらしく、つい先程まで仕事をしていたらしい。 バウエンは怪我を治したばかりの跡が残っていたし、ローアに限っては疲れてテーブルにつっぷして眠っていた。

「賞金稼ぎ稼業もラクじゃねぇなあ」
「まぁな。だがコレも仕事さ」
「そうか。じゃあその疲れを癒してもらう為にも、これでうまいモンでも食ってくれや」

俺はおたからをいくつか置いていった。中にはアウラウドリルなど高級なものもある。 連中は稼ぎもいいだろうが、消費も仕事量に比例して多い筈だからな。これぐらいあっても邪魔にはならンだろ。

「えらく気前がいいな、シド。…何かいいことでもあったか?」
「いや、ちょっとな。あまりお年玉っぽくなくて悪ィが」
「いやいや、こっちにはまだ食べ盛りのガキがいるからな。いいモン食わしてやることにするよ」

バウエンは隣で寝ているローアのほっぺたをつねってみたが、起きそうにない。食べ物の話をしている事に気付いているかのようによだれを垂らしているので、皆が面白がって笑っていた。

「じゃあ、俺は他にも回るところがあるからもう行くぜ」
「シド、ちょっと待ちな」

バウエンはチラリと仲間を見遣った後、俺に近付き耳打ちした。

「届け物が終わったら、顔出せよ…。ガキどもが寝た後で俺の行きつけの旨い店で一杯やろうぜ」
「…お。いいねぇ、いいねぇ!」
「日頃リーダーしてりゃ、なかなか言えねぇグチもあるだろ?良ければ朝まで付き合ってやるぜ」
「じゃ、また連絡する」

とまぁ、こっそり話していたつもりだったンだが。 その様子を見ていたツィーゲルが眉間に皺を寄せていた。

「ほほぉ。行きつけの店が出来る程、飲み歩いてるのか?バウエン。その費用はどこから出てるんだ?」
「…う!地獄耳め。長い耳は伊達じゃねぇな、ン・モウ族!」
「程々にしておけといつも言ってるだろう?クランの費用に手は付けてないだろうな」
「無い、無い。そう怒るなって!おまえは俺の女房か!」

………楽しいヤツラだな、おい。とばっちりを食わねぇよう、さっさと退散させてもらおう。

「じゃあな、バウエン一家。また会おう!」
「おぉ!今年も宜しく」

振り返った時、バウエンは自慢のヒゲを引っ張られて引き攣り笑いだった。
…良かった。俺のところはクラン費用、自分が管理してて。まぁ俺は必要以外に無駄使いすることはねぇが。 ガリークランの連中は、まさか俺がマントの中に小銭を溜め込んでいるとは誰も知るまい。…多分。

今度はやたらやかましい場所に来ちまった。…しかもヤローが多い。つまらン。
拍手やら口笛が鳴り響くそこは御存知、『ラブリーボイス』の新年コンサート開場さ。 ガリークランはエンゲージ等で彼女達に贔屓にしてもらっているので、新年草々楽屋に呼んでもらえたンだ。

…もちろん、これはどこぞの編集長やボイボイじいにはクチが避けても言えン。 あいつらにガリークランに加入希望されたら、こっちが困るからな!

「あ、シドだ〜。ちゃんと来てくれたんだね!」
「もちろンだ。みんな、お疲れさン」

先に楽屋で待っていた俺に最初に声を掛けたのはリーダーのマユ。 他の3人も続いて汗を拭き拭き、部屋に入ってきた。

「シド、聴きに来てくれて有難う!嬉しいわぁ〜」
「この間のさぁ、ゴーグ・カップのとき戦うシドの姿、格好よかったなぁ」
「Mr.スターに絡まれたとき、庇ってくれたよね。頼りになる〜!」
「まぁまぁ。お前ら、あまり誉めンな、誉めンな」

俺の周りに群がるラブリーボイス。もちろん、悪い気はしねぇ。まぁ、それが別に目的があったとしてもだ。

「今日はお前らに土産を持ってきたからな、ちょっとしたお年玉だ」
「きゃ〜!!やった、やった〜っ!!」

手を叩き、飛び跳ねて喜ぶアイドル達。このノリは若いねぇ〜。 俺が仲間におじさん扱いされても仕方ねぇかもしれねぇな。頭を掻きながら、それぞれにプレゼントを渡した。

「あ!新しい楽器じゃん!」
「良かった〜。これで新曲作れるね!」
「じゃあ、シドにも何かあげる。何が欲しい?」
「あたし達の新曲?プレミアグッズ?それとも『あ・た・し・たち』?」
「こらこら、からかってンじゃねぇぞ!」

調子に乗る小娘達だが、俺が多少の事じゃ怒らねぇのを知っててキャッキャと笑っていやがる。 いや、まぁ実際可愛いンだがな。何だろう、この親戚のおじさんになった気分は。

「あたし達本人は残念ながらあげられないけど、『身替わりちゃん』ならあげれるよん」
「身替わり?」
「最近プレミアついてなかなか手に入らない、等身大『ラブリーボイス抱き枕』だよっ!」
「ルッソ君と分け分けして使ってね。どんな事に使っても怒らないから」

悪戯っぽく微笑みながらウィンクするマユを見て、ちょっと溜息を吐く。 渡された枕はなる程、プレミアも付くンだろうな、という程出来のよいものだった。 しかも俺にコレ(4人分の枕)を持って出歩け、と。 今ならファンの連中がたむろしてるだろうから、俺が枕目当てのヤツに襲われる確率大なンだがな。

「それならちゃんと入る袋を渡すからね」

そう言われて渡された袋に枕を入れて担ぐと、どうにも中に人間を入れて歩く人攫いのおっさんにしか見えン。まぁ、目立つのはいつもの事だし、構わンか。

「じゃ、俺はそろそろ行くわ。お前ら、今年もいい歌聴かせてくれよ!」
「OK〜、まかせといて!シド、大好き!」

お世辞かどうか分からンが、俺は彼女らの投げキッスを背中に受けて、楽屋を出ていった。
う〜ん、来年も来よう。


続き


(09.1.14)ユトランドにお正月もXマスも無いよというツッコミは無しの方向で…



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