■討伐される
本日、ルピ山にて山登りを楽しんでいたところをクランに討伐されました。 まぁ、その気になれば私の力でやってきたクランをねじ伏せることもできたんですが、なんといいますか私の気まぐれです。
そのクランがガリークランと言うんですが、どうも仕事で仕方なしにエンゲージしに来た感、見え見えだったんですね。 討伐にきた者の中におそらくそのクランの雇い主、ヴィエラの少女が居てですね。 この娘がどうも世間知らず、という感じで面白かったんですよ。 何となくいいように使われているクランも不憫でしたし、討伐されてやることにしました。
まぁ、長い時を生きるドラゴンのちょっとした暇潰しってやつです。
■捕獲される
今日もとくにすることもなくダラダラとルピ山を散歩していたんですが、またあのヴィエラの少女と例のクランがやってきました。 話のやり取りと聞くに、私を捕らえに来たらしいんです。
どうするべきか悩んだんですが、ドラゴンの群れとの生活にもちょっと飽きてきてましたし、刺激を求めがてらに捕まってみることにしました。 ヴィエラに振り回されるいつものクランが不憫だったのもありますけど、前々からヒトの世に興味を持っていたのもあるんです。
そしてこのヴィエラ…名前はシャンメルというのですが、結構健康的で肌艶もよく美味しそうだったんですね。
ヒトとの生活に飽きたら食べてみてもいいかな、なんて下心もありました。
■新居に住む
さっそくモーラベルラの町にやってきた訳ですが、発展的な町で町並みは美しいのですが、どうも煙突から出る煙が気になりました。
私の白い鱗が汚れるんですよね。…まぁ何にせよ、白い身体は汚れが目立つから仕方がないんですが。
綺麗好きの私としては、ちょっと気になったんです。
「汚れが気になるの?あとで庭師に頼んでホースを持ってこさせるから、水浴びでもしましょ」
…おや?そんなに私は自分の身体を気にしている風に見えたんでしょうか。
これでも仲間内ではポーカーフェイスで通っているので、シャンメルの反応に正直驚きました。
「ペットの家を用意するように言ったのに…」
シャンメルの呟きにその視線の方向を見ますと、小さな犬小屋が置いてありました。
私にあそこへ住め、とおっしゃる?
シャンメルは私がナーガラージャでどれくらいの大きさがあるのか、ちゃんと説明しなかったんでしょうか。
ま、あの犬小屋ではよくて私の足先しか入らないでしょうね。
「私の部屋は大きいから、きっと一緒に住んでも問題ないわ。部屋にいらっしゃいな」
シャンメル、おそらく問題は私の大きさではなく、あなたが私と暮らすということだと思いますよ。
■父親を紹介される
「な、なんだ。シャンメル!その化け物は!」
化け物とは失礼な。ナーガラージャですよ。
「前に言っていたドラゴンです。ちゃんと倒したことを証明しようと思って。お父様、褒めて下さる…?」
「お前がドラゴンを倒せる筈があるか!どんな手を使ったんだ?取りあえず、モンスターから離れなさい!」
「お父様、今日からこの子と同じ部屋で暮らすことにしました」
「な!そんなに珍しいものを飼って皆に自慢したいのか?今度、純金のドラゴンの置物を買ってきてあげるから、そいつを山に返してきなさい!」
「このドラゴンは大丈夫です、お父様。…私が欲しいものは置物などではありません!」
シャンメルは踵を返して、自分の部屋に駆けていきました。
私はその後ろ姿と『お父様』を交互に見つめていましたが、シャンメルの後を追うことにしました。
なんだかほっておけなかったんですよ。
…さっきの『お父様』の言い方、どう思います? 私を怖がるのはまぁ、仕方がないとして、あの言いぐさはないですよね。 シャンメルはただ、父親に褒められたかっただけで、私を父親との交流の理由にしたかったんでしょ? なんで気付いてあげられないんでしょうか。ヒトの父と子の絆、関係ってこんなもんですか?
シャンメルの部屋をそっと開けると、先程は泣きそうな顔をしていたのに、ケロっとしているようです。
その姿にちょっとホっとしました。
「お父様の言うことは気にしないで。心配しなくていいのよ。私がここに居られるようにしてあげるから」
自分が傷付いているのに、私の心配ができるのですね。
シャンメルは最初に思っていたより、ずっと心の優しいヒトでした。
■命名される
「ちょっと、そんなに暴れないで」
私としては暴れているつもりはなかったのですが、彼女のブラッシングがこそばゆくて、つい身じろぎしてしまうんですよね。
なんとなく彼女は私の「いいところ」が分かるようで、これは私の楽しみな時間でもありました。
お礼に私が彼女の頬に鼻をこすりつけると、彼女も喜んでくれました。
「そういえば、あなたの呼び方を考えないと…ブリドラでいいわね」
ちょ、即決!? ていうかそのセンス…。いや、一生懸命考えてくれたんですよね。
本来ならば私にはドラゴンとしての名前がちゃんとあるのですが、ヒトには発音できないのでそこは黙っておきましょう。
それにしても『ブリドラ』ですか…。長い生涯のひとときでもそんな風に呼ばれてもいい…かな。
……でもやっぱりダサイですね!ドラゴン仲間には内緒、ということでひとつ。
■災難の日
ある日、モーラベルラの住人達が徒党を組んでヒースカリス家に押し寄せてきました。 ヒースカリス家が『危険生物所有』しているという理由で抗議にきたようです。 しかも、『危険生物』とはこの私の事だと。 シャンメルに迷惑を掛けたくなかったので、こちらとしてはおとなしく邸宅内で過ごしていたんですけど。
まぁ普通、町中でモンスターを飼ったりすることなんて無いでしょうから、居ること自体が問題だったんでしょうね。 『何かあってからでは遅い』その言い分は分かりますし、正当だと思います。 私とて、始めはこの町に来て飽きたらシャンメルをエサにしようと考えていたクチですから。
シャンメルの両親は一も二もなく、住人達の意見に賛成しました。
彼らにはこの町の名のある良家として民の信用を必要としたからです。
まぁ始めから私は彼らの『お荷物』であることは感じていましたけど。
ここで私を庇って住民達と対立したのがシャンメルその人でした。
「何故、ブリドラが責められなければならないのですか?この子は人を襲ったことはありません」
「だからこれからも襲わないって保証はあるのか?そいつが町に居るってだけで、子供を外に出すこともままならないんだぞ!」
「ブリドラには子供を愛でる心が有ります。決して怪我をさせたりしません!」
「あんたらの道楽には付き合ってられねぇ!その凶暴な姿をよく見てみろ!」
私の方に振り返るシャンメルと目が合いました。私は長い首を傾げて、その澄んだ瞳に問いかけました。
(どうしますか?私はあなたの意向に従います)
シャンメルは頷くと住人達に向き直り、強くいい放ちました。
「ブリドラが凶暴でなければ、納得して下さいますね!私はこの子の鋭い角を折ることにしました」
そう角を…。な、なに〜!!ちょっと待って下さい、シャンメル! この角はナーガラージャの象徴でですね。…て聞こえませんよね。
慌てる私の気持ちを知ってか知らずか、シャンメルは私を連れて小雪ヶ原へと向かったのでした。
角だけは、角だけは勘弁して下さい〜!もう恥ずかしくておムコに行けませんよ〜!!
■覚悟の時
私は小雪ヶ原でシャンメルと並んで青い空を眺めていました。やっぱりドラゴンと人とは相容れないものなんですかね。もうこのまま山に帰りましょうか。
私が溜息を吐くと、吐息と一緒に粉雪がチラリ、と零れました。するとそれを見たシャンメルが
「キレイ…」
と呟き、手の平に雪の結晶を乗せてそれが溶ける様を眺めていました。
「御免なさいね、ブリドラ。角を折るだなんてきっと痛いでしょうし、あなたにとってはみっともないかもしれないけれど…。今の私にはあなたが居なくなってしまったら、こうして悩みを話す相手が居なくなってしまう。勝手は分かっているけれど、そばに居て欲しいのよ」
シャンメル、何故あなたは悩みを話せる相手が誰も居ないんですか? 私などあなたを満足させられるような会話をする事ができない。 長い鉤爪があなたを傷付けてしまうから、この腕で抱き締めることもできない。 それでも私が必要だと、そう言うのですか?
暫くすると、いつぞやのクランが現れました。何かと縁がありますね、このヒト達。 私の角を折る為に雇われたんですね。 シャンメルがクランのリーダーを会話をするのを聞いて、彼女が私の事をどれだけ想ってくれているのかがよく分かりました。
角を折られるのは流石に痛かったのですが、大人しく折られることにしました。ガリークランへと渡った、私の分身とも言える、角。ヒトの世界ではなかなか手に入らないので、きっと高価なものとして扱われるでしょう。 素材に使われるか、売られるかは分かりませんが、お世話になったガリークランの糧になるなら、それで良しとしましょう。
さようなら、私の角。これで私の側に残ったのは、シャンメルだけとなりました。
「大丈夫?ブリドラ…。痛かったでしょう?」
この痛みも角の痕も私にとって勲章となりますよ。あなたの為になったのなら。
続き
(08.4.23)