城門の辺りが慌ただしくなっている。
丁度演習を終えた騎士達が帰ってきたところだった。
ふと顔を上げた兵と顔が会って、サっと敬礼された。
「みんな、お疲れさま」
私は皆に労いの言葉を掛けた。
「殿下。このような所までお出迎えいただき、ありがとうございます」
「いえ、丁度道りかかっただけよ。今日はバッシュ隊の演習だったのね」
深々と頭を下げるバッシュに私は微笑む。
「ウォースラの隊もそろそろ帰ってくるハズです。労ってやって下さいますか?」
「ええ、もちろん。バッシュもすっかり将軍が板についてきたわね」
若き将軍は次々と功績を上げていき、今やダルマスカにこの人あり、と云われるようになっていた。
「ウォースラも演習に出ていた、ということは合同で行っていたのね。で、どうだったの?」
「…私の隊が勝ちました」
そうなの、と言ってウフフと笑った。じゃ、今日のウォースラはきっと不機嫌ね。
「ねぇ、バッシュ。よかったらウォースラが帰ってくるまでお茶でも付き合ってくれない?」
「…あ!それでしたら」
「何?」
「その…殿下さえ宜しければ、私の部屋でいかがでしょうか?」
将軍となると、一人に一部屋づつ私室が与えられる。
そこへ私を呼ぼうという。
「申し訳ございません。大変失礼なこと申しました」
呆気にとられた私の様子を見て、バッシュは慌てて言い繕った。将軍とはいえ、普通王女一人を自室に呼ぼうなどという行為は考えられない。
…まぁ、バッシュらしいわね。
「私は構わないわ。面白そう」
「よ、宜しいのですか?」
「えぇ、どんなお茶を御馳走してくれるのかしら?楽しみだわ」
そういって、バッシュの腕を引きつつ、彼の私室へと向かった。
*
彼の部屋はすっきりと落ち着いていて、無駄なものが無かった。
「綺麗な部屋ね」
「何も無いでしょう。帰ってきて報告書を書いて寝るだけの部屋ですから」
簡単に言ってくれるけど、あなたの先輩将軍達はもっと散らかしてるわよ。
私は心の奥でこそりと呟いた。
私はバッシュが引いてくれたダイニングの椅子に座り、バッシュは私と向かい合わせに座った。
「もう少しでお茶を持ってくると思いますので」
侍女の誰かに頼んだのかしら…。そんなことを考えていた。
しばらくすると、部屋をノックする音がした。
「やっと持ってきたようです。…入ってくれ!!」
バッシュが声を掛けると侍女が入って…侍女が?
「な、何故殿下がいらっしゃるのですか!?」
「俺がお茶にお誘いしたのだ」
そう、お茶を持ってきたのは他ならぬウォースラその人だったのだ。
しかも…しかも!なんと侍女が着るメイドの格好で!!
「ど、どうしたのウォースラ、その格好!?」
あまりの事に私は椅子からガタン、と立ち上がってしまった。
「こ、これはその…」
「賭けで演習に負けた方がメイドをやることになっていたのです、なぁウォースラ」
「だまれ!なにも殿下にまで見せることないだろう!」
「私だけ楽しむのは勿体無い」
メイドの格好で額に青筋を立てるウォースラを見て、私は笑いが込み上げてきた。
「アハハハ…!!ウォースラ、案外似合ってるわよ、ククク…」
「そうでしょう?」
お腹をよじらせている私を見て同意を求めるバッシュ。
「ググッ!!バッシュ、貴様…!!」
「ウォースラ、負けは負けだ。潔く認めろ」
「解っている!」
「…ウォースラ、お茶」
ウォースラの目の前にカップをコト、と置くバッシュ。
ウォースラはわなわなしながらもそのコップにお茶を注ぐ。
「こらこら、ここは殿下の方から入れるべきだろう。次は間違えるなよ?」
「次の演習は俺が勝つ!お前こそ賭けを忘れるなよ!」
「どうだかな。私はどんな格好をさせられても気にしないが」
「そのときはまた、私も呼んでね」
私はようやく笑いが落ち着いて言った。あぁ、この人たちと居ると飽きないわ。
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