アーシェ11歳 バッシュ28歳 ウォースラ30歳


「そっちに回ったぞー!!」
「突きあたりで追い込め!両側から挟み討ちだ!!」

城内が騎士達の声で溢れ返る。
そう、この城に入った盗賊なら一度は来たコトあるかも知れないわね。 大広間の上にある、あの壁に獅子の紋章やらがある所よ。 でも今回の侵入者は盗賊じゃなかったのよ…

「ち、ちょっと待ってみんなっ!」

剣や槍を振り回す騎士達に向かって、私は声を張り上げた。 侵入者は私が害なすものではない、と感じ取ったのか、私の背後に逃げ込むように駆け込んできた。

「アーシェ殿下っ!!」
「危険ですので離れて下さい!」
「おのれ!殿下を盾に取るとは卑怯な!!」

口々に叫ぶ騎士達に向かって一言。

「みんな…。大 袈 裟よ!!」

足下で頭を垂れているのは…2匹の犬だった。
その後、とくに凶暴な犬ではないと判断されて、奇妙な犬とヒュムの追い掛けっこは終わったわ。それで騎士の監視付きで私は犬達と遊ぶことが許されたの。
監視って言ってもバッシュとウォースラだったから、そんなに息が詰まる思いをしなくて済んだのだけど。

兄達は自分より随分年上であまり一緒に遊ぶことは殆どなく、私は思わぬところで素敵な友達がやって来たわけだから、とても嬉しかったの!
2匹の犬は成犬で、立ったら私の身長より大きいんじゃないかしら。 1匹は薄茶、もう片方は黒。 いわゆる、ゴールデンレトリーバーとラブラドールレトリーバーだった。
2匹共、私に助けて貰えたと思っているようで、千切れそうになるくらいシッポを振って甘えてきた。…か、かわいい。 私はペロリと舐めてくる彼等のフサフサの毛を撫でて、その感触を楽しんでいた。

私から少し離れたところにバッシュとウォースラが見守っていてくれていた。 バッシュはほほえましいといった感じで見てるけど、ウォースラはいつものように無愛想だ。

この人は怒り以外の感情があまり表に出ないようで、その辺のところがバッシュと違って部下に敬遠されるみたい。 といっても、2人とも国を愛する心は同じで皆に慕われてるけどね。

話が逸れたわ。でも今回のウォースラはなんだか本当に不機嫌っぽい。

(バッシュ…侵入者から殿下をお守りせよ、と言われて気合いを入れて来てみたら、アレはなんだ?)
(あぁ、ほほえましいことだな)

違うだろ、と横目で制す。

(犬と遊ぶ殿下を見守るなら、侍女で十分勤まるのではないのか?)
(ウォースラ。これも騎士としての勤めだぞ)

要は、お守を押し付けられた事に不満があるのだ。 ウォースラはふぅ、と深く溜息を吐き顔をしかめた。

「ウォースラ、不満なの?」

私はワザと上目使いでふくれてみせた。

「い、いえ。不満などと…」
「そう?じゃあ、ワンちゃんと一緒に遊んであげて?」

うっ…と隣のバッシュを見るとゴールデンの方に顔を舐められ、涎でベトベトになっていた。

「くすぐったいよ、ハハハ…!!」

この上ない、という程に幸せそうなバッシュを見て、ウォースラはこの状況に対応できる彼の天然さを羨ましそうに見ていた。 ウォースラの足下にラブラドールがすり寄ってきて、きゅ〜んと鼻を鳴らす。 ウォースラがおそるおそる頭を撫でてやると、犬は彼の額をペロリと舐めた。 どうやら好かれたようだ…悪い気はしないようだけど、慣れない事に少し戸惑っいる。

「アハ、やっぱり似てる!」
「…? 何の事でしょうか?」

バッシュが顔を上げる。

「2匹の犬が2人に似てるってコト。ゴールデンがバッシュで、ラブラドールがウォースラね。2匹の毛色を見て思ったの。いつも一緒にいるとこもね」
「犬…。俺が犬と……!!」

ウォースラが呆然として立ち尽くしているところに、

「そうですか!なんだか嬉しいです」

とバッシュがにこやかに答えた。
2人の反応に私はお腹を抱えて笑った。でも、その通りだと思わない?

「ねぇ…このままワンちゃん達と一緒に暮らしても構わないわよね?」
「そうですね。殿下の新しい友人として、これからもそのお心をお慰めすることでしょう」

とバッシュが微笑んだところ、側のウォースラが顔を曇らせた。

「バッシュ。お前には伝えてなかったか。犬達はこの城内に置くことはできん」
「何故だ?」
「お妃様が動物の毛や羽根にアレルギーがあることは知っているだろう? チョコボにすらお乗りになられない。ペットを飼うなどなおさら、だ」

私は、2匹の犬の屈託の無い瞳を見つめた後、その場から翻して自室に向かって駆け出した。

「…殿下!!」
「今回だけはいたしかたない」

ウォースラが追い掛けようとしたバッシュの肩に手を置き、首を横に振った。

解っている。自分のワガママより母の身体の方が大切だ。
犬と離ればなれになる事は寂しいが、それよりもあのヒュム慣れしている様子の犬達の行く末が心配だった。今まで人に飼われていただろう彼等を自然に返すのは酷だろう。
…考えたくたいが、モンスターの餌になるのがオチだ。
誰かに引き取って貰うにしても、この閉じこもった空間で暮らす私にはそんな誰かのアテは無かった。侍女や騎士達も城に住み込んでいるので、自分と同じ理由で飼えない。

自分は犬達の何の力にもなれないのだろうか。 癒して貰うだけ貰っておいて、飼えないから無用といって外に放り出すようなことはしたくなかった。

私が討ち拉がれてベッドに顔を埋めていると、ドアがノックされた。

「殿下。ウォースラです」
「入って」

私は側の椅子に腰掛けて、応じた。

「ウォースラ。さっきは急にその場をほっぽりだしてごめんなさいね」
「いえ。その件ですが…」

聞けば犬達の引き取り手をバッシュと一緒に当たってくれたらしい。

「結局、引き取り手が居なかったのね」

私はやはり、と俯いた。

「はい。なので我がアズラス家で引き取らせていただくことに致しました。 ウチの広い庭なら犬も快適に過ごせるでしょう」

驚いた顔を上げた私に

「母が暇を持て余していたので、丁度良かったようです。その…息子が戻ってきたみたいだと言われましたが」

照れて頭を掻く彼に、私は飛びついた。

その後、私は度々ウォースラから犬達の元気な様子を聞かせて貰えた。 そのうち、お忍びで遊びにいこうかな?


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