今日はちょっと特別な日だったの。
一国の王女としては、自国の歴史について学ぶのは当然の事だし、将来の為にもいろいろ勉強しとかなきゃって思うのよ。
でもね…。どうも私は机の上でじっとしてるのがニガ手みたい。
歴史の勉強もそっちのけで、お散歩に出掛けたってワケ。
今日はチョコボ舎の方まで足を伸ばしてみた。 …ホントは危ないから行っちゃダメって言われてるんだけど。
誰かがチョコボの世話をしてた。
普段ならかわいいチョコボを見るだけで、側にいる人の事なんて気にならないんだけど。
…男の人に言ったらおかしいかな?
すごく綺麗な人だったの、その騎士!
金色に揺れる髪、濃い蒼の瞳、掘りの深い顔立ち…に浮かぶ微笑み。
ついうっとりと見つめちゃってたら、当然視線で相手にも気付かれて。
深々とおじぎをしてきたわ。
まぁ、向こうは私のコト誰だか知ってるでしょうけど。
私がそっちに行こうすると、彼は慌てて私の手を取った。
「足下にお気を付けて、アーシェ殿下」
「大丈夫よ。ここへはよく来るの」
チョコボが見たくてね、と言って、目の前で屈んだ彼の顔を見上げた。
「あなた、初めて会ったわね。名前は?」
「バッシュとお呼びください」
「そう宜しくね、バッシュ」
そう言って、チョコボではなくバッシュのそのフワフワの髪が気になって、つい、撫でてしまった。彼は一瞬戸惑ったけど、されるがままになっていた。
王女相手に嫌がったり出来ないか。ちょっと悪いコトしたわ。
クスリと笑うと、バッシュも微笑み返してくれた。…やっぱり綺麗。
「バッシュは綺麗ね」
「!?」
フフフ…と笑い、
「ねぇ、私がここに来たの、内緒にしててね」
「禁じられているのですか?」
「そう。チョコボは危ないんですって」
「…それは誤解です。危ないと思っている内はチョコボも心を開いてはくれません」
私の肩に手を置き、真剣な顔で語るバッシュを見、あぁ、この人ホントにチョコボ好きなんだなぁって思った!
「あなたと居たら、危ないこともないでしょ?ねぇ、また一緒にチョコボと遊んでくれる?」
「えぇ、喜んで!」
一瞬、驚いた顔になったバッシュがすぐに破顔した。
禁止されてることを一騎士が簡単に協力しちゃダメでしょ!
と大笑いしながら彼の首に抱きついた。
今日は、そんなバッシュ・ローゼンバーグと出会った日、でした。
*
今日もブラブラとお城の探索をしていたら、回廊でバッシュに会ったの。
彼は私に気が付くと、ニコリとして一礼した。
私はいつものように弾んだ気持ちになり、バッシュの居るところまで駆けて、その腕にしがみついた。
「ね、今日もチョコボの乗り方教えてくれる?」
バッシュは私の目の高さに合わせて膝を折り、困った顔をした。
「昨日、お教えしたところですね?
私があまりにこっそり出歩くと、寮の同室の者に怪しまれます」
「同室って…あ!!」
柱の影に私のニガ手な二つの目!
茶色掛かかった黒髪にはっきりとした目鼻立ちの騎士。
私に一礼した後、バッシュに向かって額に青筋を立てる。
「最近どうもコソコソと出歩いているかと思ったら…。
国に仕える者として、していいことと悪いことの違いが解るな?」
「ウォースラ…すまない」
ウォースラは確かバッシュより2つ年上の騎士だったハズ。
シュンとしているバッシュと腰に手を当てて怒鳴るウォースラをみると、年の離れた気の荒い兄がどうしようもない、しおらしい弟を怒っているのように見える。
どうしてこうも性格の違う2人が一緒に居られるのだろう。
…いや、そんなことを考える前に。
「ウォースラ。私が彼にムリ言ったのよ。どうかバッシュを怒らないでやって!」
「いいえ。バッシュもですが、恐れながら殿下にも反省していただかなくてはなしません。
…御身をどれほど大切にせねばならないかおわかりでしょうか?」
私は頬を膨らませ、プイと横を向いた。ウォースラは続けて言う。
「殿下に何かあった時、処罰を受けるのはバッシュなのですよ?」
「ウォースラ私の事は…」
「黙れ、バッシュ!殿下、…殿下のワガママでひとりの騎士の首を飛ばすおつもりですか?」
これは大袈裟…とは思ったが確かにバッシュの身の事など考えずに自分の願望を聞いてもらっていたのは確かだった。
「ウォースラ…!少し言い過ぎだ」
「ううん。…ごめんなさい、バッシュ。そしてウォースラにも心配かけて。
でもね、無理だと解っていても、私も普通の子供みたいにチョコボと遊んでみたかったの。
決して危険なことをするつもりじゃなかったのよ?」
私は俯いて拳を握りしめた。
…普通の子供みたいに。こんな事は両親の前では言えない。傷つけてしまうことが解っていたから。でも親身になって心配してくれる二人に思わず本音が洩れた。
ウォースラは私の目をじょっと見つめてそっと私の肩にその大きな手を置いた。
「…殿下。何も私は殿下の行動を妨げたいわけではありません。
ヒュムの世界にはルールがあります。
きちんと両陛下の許可をいただいてから、実行していただきたいのです。
…よろしいですね?」
ウォースラの鳶色の澄んだ瞳に私が写っていた。そこには先程までの怒りはない。
「…はい。でも許して貰えるかしら」
「自分とバッシュからもお願いしてみます。
どのような事も何もしない内から諦めてしまうと、そこには何も残りません」
「…ありがとう。
ねぇ、お許しが貰えたらウォースラも一緒に教えてくれる?」
にま、とした私に、彼は慌てて
「いえ…自分はチョコボの扱いはあまり得意ではなく…!!笑うな、バッシュ!」
私はバッシュと一緒になってケラケラと笑った。
「ウォースラはいつも怒った顔をしてるから、チョコボに怖がられるんだわ。
ねぇ、バッシュ」
「そうですね」
思わずムッと苦虫を噛み潰したような顔になったウォースラだったが、笑って気分が落ち着いた私とバッシュを見て、ふ、と微笑んだ。
前にウォースラがニガ手って書いたけど。
こんな風に怒ってくれる人って彼くらいなのよね。
父上よりも恐いとき、あるもの。
怒られてるときは恐いんだけど、私を想って言ってくれてるのが解るから私は嬉しいの。
…本音を言うのは悔しいから本人には言わないケド。
いつも優しく包んでくれるバッシュと時には厳しく叱ってくれるウォースラ。
どちらも私には頼もしく必要なナイト達。
そう、二人が混ざりあって丁度いいバランスになる。どちらかが欠けてもいけない。
なぜこの正反対のような二人が一緒にいられるのか、良く分かった。
できることなら、ずっと側に居て欲しい…ってまた私のワガママが出てしまった。
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