ジャッジマスター☆養成学院6

本日は晴天なり。 ガブラスは朝からいそいそと外出の準備をしていた。

「おや?ノア、今日は学校ではないのか?」

バッシュは家で過ごす時間が多い為か、いつも赤いチョッキに短パンという いかにも暇を弄んでいるオッサンという出で立ちであった。 スリッパを履いてパタパタと音を立てながら玄関まで弟を見送りにきた。

「今日から就学旅行だと言っていなかったか? そういう訳だからしばらく家を空けるからな」

靴の紐を結び終わったガブラスはまた眠そうな顔のバッシュを見上げて言った。

「そうなのか…。寂しくなるな」

たちまちしゅんと沈んだ顔になったバッシュに

「2〜3日不在になるだけだ。…ちゃんと土産を買ってくるから」
「…!そうか。ノア、私はチョコボ饅頭でいいよ」
「そんなもの、そこらの百貨店で買えるだろ?」

土産の話になると急に顔を輝かせた兄に呆れる弟。

「我々は土産でもない限り、わざわざ百貨店でお菓子を買ったりしないだろう? そんなことより…。今日の旅館はドレイスと同部屋になれたのかい?」
「…っ!馬鹿、どこの世界に男女同部屋にする学校があるんだ!」

バタン!力任せに閉めた玄関の向こうで、兄がクスクス笑う声が聞こえた。

(まったく、弟をバカにして…)

そんな事を言われたら妙に今夜の事を意識してしまう。 バッシュにしてみれば弟が可愛いだけなのだが、 ガブラス本人は子供扱いされている気分で面白くない。 ガブラスは赤い顔でなにやらぶつぶつと呟きながら集合場所へと向かっていった。

現地集合だったので、直接旅行先である遊園地に向かった。 ジャッジにとって何故就学旅行に遊園地で遊ぶことが必要なのか。 単に生徒会長のヴェインと学長のシドが遊びたかっただけなのだろう。

(本来ならばバス移動でドレイスの隣に座って楽しく雑談でもしたかったのに…)

その様子を妄想していたガブラスは、袖を引っ張られているのに気が付かなかった。

「おい、ガブラス! 返事をしないか」
「…は! ドレイス。 来ていたのか」

(妙な独り言を言っていなかっただろうか…)

ガブラスは少しイヤな汗を掻いた。

「まったくニヤニヤしおって。いくら旅行が楽しみだといっても、 ジャッジたるもの、常に気を引き締めていなければならないぞ!」
「…その通りだな」

ガブラスはさすがにお前の事を考えてニヤついていた、とは言えなかった。 ドレイスはいつもの制服に小さいナップサックという身軽な格好でとても可愛らしかった。 これからの時間が楽しみだと考えていたガブラスは、その少し後ろを見て顔を顰めた。

「いや〜、私は遊園地って初めてなんです。楽しみですね!」

そこにはリュックサックに水筒を斜めがけに肩から掛けて微笑むラーサーの姿が見えた。 その後ろにはこんなときにも無表情なザルガバースがのほほんと見守っている。 ガブラスはそんなザルガバースの腕を引っ張って耳打ちした。

「ザルガバース…! 何故ラーサー殿がこの旅行に着いてきているのだ? 彼は小学生だろう? 今日は学校があったのではないのか!?」
「皆まで言うな、ガブラス」

ラーサーはおそらくヴェインに取り入って強制的に参加させて貰ったのだろう。

「折角ドレイスと2人で散策できる自由時間だというのに!」
「そのうち2人きりにしてやろう。安心するがいい」

サルガバースの言葉にガブラスはしぶしぶ了承した。

取り合えず一同はこの遊園地のメインスポットであるジェットコースターに乗ることにした。 正直のところ、遊園地で遊ぶことにさほど興味の無かったガブラスだが、 この乗り物だとドレイスと隣同士で乗れる。 怖がるドレイスを宥めて、その勢いで手でも握れればラッキーだな、くらいに考えていた。 その後ろにラーサーとザルガバースが乗っていなければもっと良かったのだが。

コースターはある程度進むと斜面を登り始めた。 頂上まで登ると一気に高速度で下降するタイプだ。


ガタガタガタ…
「高いところから見ると景色が綺麗だな、ドレイス」
「うむ」
ガブラスは何となく落ち着かなくて、そわそわしてきた。


ガタガタガタ…
「なかなかスピードが出そうだな…。大丈夫か、ドレイス」
「あぁ」


ガタガタガタ…
「…少し、高く上がりすぎではないか?」
「しゃべっていると舌を噛むぞ、ガブラス」
地上の小さくなっていく人や建物を見て、ガブラスの顔は青くなっていった。


ガタガタガタ…
「ドレイス…。実はコースターに乗るのは初めてなのだが」
「安心しろ、ガブラス。私が手を握っていてやろう」

冷汗でじっとりとしたガブラスの手にドレイスの手が添えられた地点で 彼の当初の目的は達成されているのだが、本人はそれどころではなかった。

ガタガタガタ…ガ・タン!



ぎゃーーーーーーーーー!!!!!!!


頂上以降の状況はガブラスの名誉の為に割愛しておいた。 コースターから降りたガブラスは青ざめた顔でガックリとしていた。

「………ドレイス……楽しかったか?」
「うむ。途中、七変化する卿の顔を見るのが面白かったぞ」
「そうか…。楽しんでくれたのなら、それでいい」

「怖がる人と一緒に乗っていると楽しいですね」
「おっしゃるとおりです」

後ろで殺生な事を言っているラーサーとザルガバースにギっと睨みを利かせ、 ガブラスはただでさえ不機嫌な表情をさらに深めた。

(…次だ。まだ次の機会がある)

ガブラスは気を取り直して次の目的地に行くことにした。 グっと握った握りこぶしには哀愁が漂っていた。

「ジェットコースターの次はお化け屋敷か。 魂胆が見え見えで少し恥ずかしいぞ、ガブラス」
「いちいち五月蝿いぞ、ザルガバース! 分かっているだろうが…」
「あぁ、私とラーサー様は少し後で出発しよう」

ザルガバースから別行動をすると説明されたラーサーは憮然としていたが、 お化け屋敷の暗闇ならあまりガブドレの観察もできないと踏んで納得した。

ガブラスといえば、今度こそ怖がる可愛いドレイスが見られるとワクワクしていたが、 それを表には出すまいと顔を引きつらせていた。

「そんなに怯えた顔をするな、ガブラス。私が側に居てやるからな」
「………?あ、あぁ、そうだな」

ガブラスの表情を恐怖からだとドレイスは勘違いしたようだ。

(どうせならそのセリフ…。俺が言ってみたかったんだがな)

ガブラスは心中複雑な思いで、2人でお化け屋敷に入っていった。 その様子をザルガバースとラーサーが見送る。

「あの2人、どう思われます? ラーサー様」
「あの分だと進展ないと思いますよ。まずドレイスがお化けを怖がるとは思えません。 僕、最近どっちかと言うとドレガブ派なんですよね」

他人の目から見た2人はあんまりな言われ様だった。

ガブラスは2人きりの時間を堪能したくてゆっくり進んでいた。 暗闇の中、ガブラスは隣のドレイスにそっと話し掛けた。

「気分は悪くないか? ドレイス。 随分と周りが暗くなっているようだが…」

返事がないのをガブラスは恐怖から声が出ないのだと受け取った。

「心配するな、ドレイス…。もっと側に来るといい」

引き寄せたドレイスの首はひんやりと冷たく、熱くなっていた掌に心地よく感じた。

「どうした? ドレイス。 身体が冷たいな…。寒いのか? ………ドレイス?」

ガブラスはそれでも返事をしないドレイスを心配して顔を覗きこんだ。 その瞬間、ガブラスは凍り付いた。 ドレイスだと思わしき頭からみょ〜んと首が伸びていて、 側にあった女性の人形の身体に繋がっていた。 ガブラスはいわゆる『ろくろ首』相手に話し掛けていたことになる。

呆然としていたガブラスの後ろから、女子高生と思われる話声が聞こえた。

「ちょっと見てアレ! あの人『ろくろ首』相手に口説いてるわよ」
「見た感じカッコイイのに彼女居ないのかしら。可哀想〜」

その声に我に返ったガブラスは、その場をダッシュで走り去った。

(何なのだ、毎度この展開は! 誰かが俺とドレイスの仲を邪魔しているのか!? 何故だ、バッシュ!! 許さんぞっ!!)

ガブラスは何かと都合が悪くなるとバッシュに怒りをぶつける嫌いがある。 ちょうど家で洗濯物を干していたバッシュは大きくクシャミをしてしまったそうな。

「いかんな、ガブラスと逸れてしまった」

マイペースで進んでいたドレイスは振り返ると一人になっていた。

「今頃、一人で怯えているかも知れん。 早く行ってやらねば」

後戻りをしようとしたドレイスの行き先に2つの影が動いた。

「おい、ドレイスがこっちへ来るぞ…」
「前回こっぴどくやられたからな。 少し怖がらせてやろう」

その場に居たのは、おなじみギースとベルガ。 どうやら以前ドレイスにボコボコにされたのを根に持っていたらしい。

暗闇の中、ギースが様子を見てベルガをドレイスの側に近寄らせた。 それに気が付かないドレイスはズンズンと前に進む。 ベルガはドレイスの脚を引っ張って転かそうと屈んだその時…!!


…ぶぎゅるっ!!

「ん?何か踏んだようだが…。 障害物か何かだな。さて…早くガブラスを探さないと」

踏んだモノがベルガだとも知らず、ドレイスは来た道を戻っていった。


「………大丈夫か、ベルガ?」
「ギース。もうあの女に関わるのは止そう。…そのうち殺される」

ギースはクリティカルを食らったベルガを抱えて這う這うの体で脱出した。

ようやくガブラスとドレイスが出会ったのは、もう出口近くであった。 外に出るとすでにラーサーとザルガバースは外で待っていた。

「ガブラス、どうだった? 何かいいことあったのか?」
「やかましいっ!」

にこやかに訪ねるザルガバースを睨みつけて怒鳴るガブラスを見て、 ザルガバースとラーサーはやっぱりね、と顔を見合わせるのだった。


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