流石にガブラスの運の悪さに同情したラーサーは、
2人で遊園地を散策ようにと告げてその場を後にした。
ザルガバースもガブラスの肩をポンと叩き、
「まぁ、こういう日もあるさ」
とお決まりのセリフを置いてラーサーの後を追っていった。
ガブラスは『こういう日』がこうも度々続くのは何故だろうと、
しきりに首を捻っていた。
そんなガブラスを尻目にドレイスは充分に旅行を満喫しているらしい。
「ドレイス、楽しそうだな」
「あぁ。 旅行だといつもより長い時間、卿と一緒に居られるしな」
そう言って貰えただけで、先程までの憂鬱な気分が霧散する。
なんともまぁ自分も単純な生き物だと苦笑しながら、
ガブラスは先を行くドレイスの後を追った。
「お! ガブラス、アレをやってみないか?」
ドレイスの指す方を見遣ると、
そこには銃のおもちゃで的を当てる『射的』スペースがあった。
周りにはチョコボやモーグリの縫いぐるみを持った女子ジャッジが集まっていた。
おそらく射的の景品で貰えるものだろう。
(ああいう可愛いものが好きとは…。やはり彼女も女性だな)
ニヤリとほくそ笑んだガブラスは、
ここでドレイスの欲しいものを取ってやろうと気合いを入れ直した。
「…で? どれが欲しいんだ、ドレイス?」
「そうだな。 やはりあそこの模型だな」
模型…?
景品を見ると、一つだけ他とは違う浮いたものが飾ってあった。
それは成人男性の筋肉を象った人体模型だった。
「ドレイス、あれはその…。
どちらかというと男の子向きな景品ではないだろうか?」
いや、筋肉の形がリアルすぎて例え男の子でも欲しいとは思えないだろう。
(あんな子供向きじゃないものを置くここのスタッフの神経が分からん。
欲しがるのは筋肉オタクかドレイスくらいのものではないのか?)
呆れるガブラスを余所に、ドレイスは瞳を輝かせていた。
「いやいや、自分が鍛える際の参考にもなるし、
何より私はガチムチな身体が好きなのだ」
そう言ってドレイスはガブラスの身体をペタペタと無遠慮に触ってくる。
(決して嫌ではないのだが複雑な心境だな…。まぁもう少し彼女好みに鍛えてみるか)
気を取り直して射的をやってみたのだが、
いかんせん的が小さくてなかなか当たらない。
模型は縫いぐるみより高級なのだろう、難易度が高く設定されていた。
「簡単そうに見えるのにな。 ガブラス、次は私がやってみよう」
運動神経のいいドレイスにも難しかったらしく、的にかすりもしない。
取りあえずあっさりドレイスに当てられなくて、ガブラスはホっとした。
その時、隣のスペースから黄色い歓声が上がった。
数人の女子ジャッジに囲まれて景品を取り巻くっているジャッジがいる。
「誰だ? あのジャッジは…。凄い銃のウデだな」
「何だ、ジャッジ・ブナンザを知らないのか? ガブラス。
彼は学園の検定で一番になった優れたガンナーだぞ!」
「あいつ学長の息子か! 三男のファムランだったな」
「流石に射的はお手のものか。 私も彼に頼んでみるか」
止める間も無くドレイスはファムランに声を掛けていた。
当然のごとくガブラスにとっては面白くない。
男としては自分に頼って貰いたいものである。
「………え?アレを捕って欲しいのか?」
ドレイスに連れられて来たファムランがチラリとガブラスを見る。
明らかに不機嫌なのが見て取れたのだろう。
ファムランはニヤリと口の端を上げた。
いちいち勘に触る奴、とガブラスが憤慨していたところに、
ファムランの行動がさらに追い討ちをかけた。
「ジャッジ・ドレイス、俺が撃ってみてもいいんだが、
自分で捕りたいだろう? 俺が撃ち方教えてやるよ」
そう言ってファムランは銃を構えたドレイスの姿勢を直す為に、
ドレイスの腕や腰に手をやって正そうとする。
ドレイスは教えて貰っていることに必死で気にしていないようだ。
(あいつ…! 人の彼女に気安く触るなどと…)
ファムランの態度をガブラスに対する挑戦だと受け取った。
「ドレイス、もういいだろう? 早く次へ行こう!」
「待ってくれ、ガブラス。 あと少しで当たりそうなのだ」
射的に目を輝かせるドレイスを見て、
ガブラスは自分が置いて行かれたような気分になった。
「…!!おおっ、当たったぞ。 見ろガブラス! …ガブラス?」
「…連れのジャッジなら一人でどんよりしながら歩いていったぜ」
おめでとさん、と言いながらファムランはドレイスに景品を手渡した。
「どうしたのだ? ガブラスは…。 迷子か?」
「違うだろ、それは。自分から去って行ったんだ」
「………何故だ?」
「何故だと思う? まぁ、いい気分じゃなかったのは確かだろうな」
ドレイスは景品の筋肉模型をギュと抱きしめながらも表情は暗かった。
折角景品が取れたのに嬉しくない。
(ガブラスも一緒に喜んでくれるものだと思っていたのに。
このどうしようもなく胸が騒ぐ不安感は何なのだろうか)
「すまん、ジャッジ・ブナンザ。私は…」
「向こうの方へ行ったぜ。 早く行ってやれよ」
「かたじけない、恩に着る!」
ドレイスはファムランが指した方に向かって駆け出していった。
やれやれ、と溜息を吐いたファムランが側の暗がりに声を掛けた。
「おい、出てこいよ」
「あんまりじゃないですか、ファムラン! ガブラスが可哀想すぎます」
必死の抗議をしたのは御存知ラーサー様。
「今のは俺は悪かったのか? まぁ、それはいいとして…。
俺としては、ヤローにはもうちょっと抵抗して欲しかったね」
「2人の距離が離れてしまわなければいいんですが…。
それにしても進歩のない彼等に刺激が入ったのは確かですね。
お礼にファムランには『新・缶入りポーション』をダースで…」
「要らねぇって! 単にいつものが炭酸になっただけだろ!」
ポーション話しで盛り上がる2人を尻目に、
側に居たザルガバースがドレイスが走り去った方を見遣った。
「あの2人なら…。大した事にはならんだろうがな」
*
ドレイスは息を切らせて辺りを見回した。
ある一点で視線が止まり、そこへ駆け寄る。
「ガブラス、見つけたぞ」
「………ドレイス」
ガブラスは『小動物と遊ぼう』と書かれた看板の影で、 体育座りをしながらギーザラビットを撫でていた。
その隣にドレイスはゆっくり腰を降ろした。
周りには人の気配もなく、あるのは兎が時折跳ねる音と鳴き声のみ。
暫く居畳まれない空気が流れたが、
手持ち無沙汰に兎を抱き上げたドレイスの声がその静寂を破った。
「ガブラス、私が勝手してすまなかった」
「いや、俺が大人気なかったのだ。 いい歳して嫉妬など…」
「嫉妬に年齢は関係あるまい。 私がもっと卿の気持ちに気付くべきであった」
自分の失態にドレイスはかなり悄気ていた。
その様子を見上げたギーザラビットが、
ドレイスの腕の中でキュゥと鳴いた。
こんな気落ちしたドレイスを見るのは初めてだと思い、
ガブラスは胸が締め付けられた。
「もういい、充分だドレイス。 俺こそつまらぬ思いをさせてすまなかった」
「ガブラス!! 私はな、模型の身体よりよっぽど卿の身体の方が好きだぞ!」
…………
「……はぁ!?」
「私が模型の肉体にこだわるものだから、それに嫉妬したのであろう?」
「俺が模型に嫉妬したと思ったのか?」
「…そうではないのか?」
「………ククク…。ハハハハッ…!!」
ガブラスはドレイスの相変わらず突飛な思考に呆れを通して
笑いが込み上げてきた。
自分があれやこれや模索してきた事がもうどうでもよくなっていた。
「な、なんだガブラス!」
「いや、可愛いひとだと思ってな」
そういいつつドレイスを兎ごとそっと抱きしめた。
兎は潰されまいとドレイスの腕から飛び出したが、
ドレイスはされるがままになっていた。
そのうちドレイスもそろそろとガブラスの背に手を回すと、
ギュっと抱きしめた。ガブラスの背からミシリっと嫌な音がした。
「ド、ドレイス…! 苦しいっ」
「卿が離れていってしまうのは寂しいぞ、私は…」
「ドレイス…」
ガブラスはしがみつく彼女の背を撫でて、お互いの不器用さに苦笑した。
*
結果的には楽しく過ごせた遊園地を後にし、
ジャッジ達は旅館でゆったりとした時間を過ごしていた。
ガブラスはこのまま今日が終わってしまうのは勿体無いと、
ドレイスと約束して旅館の屋上で待ち合わせをしていた。
屋上でガブラスがそわそわとしていると、
浴衣姿のドレイスがやってきた。
「ガブラス…。折角だが私は遊び疲れていてな。
用件は手短にお願いしたい…」
「あ、あぁ、分かった」
ふわりと欠伸をし、口元を手で押さえる彼女は目がとろんとして虚ろだった。
見なれぬ浴衣姿にドギマギするガブラスは、目のやり場に困っていた。
どうしても白い項に目がいってしまう。
ドレイスはウトウトと目蓋が塞がりそうで、唇が半開きになっていた。
(こ、この展開は………。やはり求められていると解釈していいのだろうか。キ、キスを…!)
半ば混乱に陥りながらもガブラスはドレイスの肩をしっかと支える。
ドレイスの呼吸が聞こえるくらい顔をゆっくりと近付ける。
その規則正しい呼吸を聞きながら…規則正しい?
妙に異変を感じたガブラスはドレイスの顔をじっくりと眺めた。
(まさか…。寝た!? この状況で寝てしまったというのか?
………ど、どうしよう)
スヤスヤと寝息を立てるドレイスを支えながら、
ガブラスはその場で固まってしまった。
*
「で、そのままどうすることも出来ずに夜を過ごした、と」
「は、その通りです閣下」
「戯れ言を言うな!」
バンッと机を叩いて椅子から立ち上がったのは生徒会長のヴェイン。
隣にはザルガバースが控えていた。
その前にはガブラスとドレイスが昨夜の件で呼び出されていた。
ヴェインは手に取った冊子を目の前の2人に突き付ける。
「卿等は私の作成した『旅のしおりv』を読まなかったのか?」
「いえ、事前に閲覧しております」
「ならば深夜の不純異性交友は禁止という事項も見ただろう?」
「は。昨夜は本当に何もなかったのです…本当に」
俯くガブラスはゴホッと咳き込んだ。
朝になってザルガバースが見回りに来るまで2人はあのままだったのだ。
当然のごとく湯冷めして2人は風邪を引いた。
隣のドレイスもボーっとした赤い顔で目が虚ろだ。
その態度を話しを聞いていないと受け取ったのか、
ヴェインは厳しい表情でドレイスに向き直った。
「真面目に話しを聞け、ドレイス」
「は。……は、は、はくしょんっ!!」
言うまでも無くドレイスの目の前に居たヴェインの顔は、
ドレイスの涎と鼻水でグチャグチャになっていた。
ガブラスとザルガバースの表情がサーッと青くなった。
「…………」
「閣下、お気を確かに…」
「ガブラス」
「…は」
「法に背いた者を裁け」
「え〜!?」
「閣下、それはあまりに!」
ドレイスを指してキレるヴェインをガブラスとザルガバースが必死に宥めた。
ドレイスはというと熱に浮かされ、
騒動の本人だというのに大胆にもその場で寝てしまった。
その場を諌めたのはいずこより現れたラーサーの鶴の一声だったそうな。