今日は休校日だ。
いつもなら部屋でごろごろジャッジマスター教本や戦略書を読んだり、
バッシュとDSliteで通信プレイをするかだが。
今日は…。
今日はドレイスが自宅へ遊びにくることになっているのだっっ!!
そのことを考えるだけで落ち着かない。
「ノア、さっきから何床をゴロゴロ転がっているのだ?カーペットから埃が舞っているぞ」
バッシュの指摘でハっと我に返る。
「すまん、バッシュ。つい興奮してしまってな」
顔がニヤけてしまっているのだろう。バッシュが怪訝な顔をしている。
「浮かれるのもいいが…。
公園まで彼女を迎えに行くんじゃなかったのか?」
そ、そうだ。肝心な事を忘れていた。
「男は待ち合わせの15分前には着いていること!これは常識だぞ、ノア」
あのバッシュに常識について語られ、至極まともなことを言っている。 何か嫌な予感がする…。雨でも降らなければいいが。
*
公園へ行くとすでにドレイスは来ており、野良チョコボにエサをやっていた。
「ドレイス、待たせてすまん」
「いや、私も30分程前に来たところだ」
「……………」
それは、たかが30分くらい、ということか。
それとも30分も待ってるんですケドという怒りの提示か。
…彼女の表情からは図り知れなかった。
「ところでガブラス、今女子ジャッジの間で人気のフルーツパーラーがあるのだが、
一緒に行ってみないか?」
その話は噂で聞いていて、甘党のバッシュがやたら行きたがっていたことを思いだした。 男2人でその手の店には入りずらいので行ってみたことは無かったが。 俺自身、甘い物には興味無いがドレイスが喜ぶなら、と店に入った。
店内は女性好みの可愛らしい装飾で彩られ、若い女性や子供連れの主婦で込み合っていた。
俺はその場に居る自分に激しく違和感を感じた。
ウェイトレスが注文を聞きに来たので俺は先にコーヒーを注文したが、
ドレイスはメニューと睨めっこをしてどれにしようか迷っているようだった。
その様子はやはり彼女も女性なのだなと感慨深くなり、彼女に隠れてほくそ笑んだ。
「ドレイス、食べたいものがあれば好きなものを頼むといい」
「そうか。ではそうしよう」
俺は自分の言ったセリフに後で後悔することになる。
その後大量のパフェやらあんみつやらが運ばれてきて、見ただけで俺は胸ヤケしてしまったのだ。
もくもくとパフェを食べながら、ドレイスはぼそりと呟いた。
「ガブラス…何時になったら卿からキスしてくれるのだ?」
あまりの発言内容に俺はコーヒーを吹き出した。
「ド、ドレイス。俺たちはまだ付き合い始めたばかりだったと記憶しているが…」
「しかし、今週の『週刊女性ジャッジ』の読者投稿ページに
「私は彼と初めてのデートでBまでいきました(はぁと)」とか書いてあったのだ…
ひょっとすると我々は遅れているのではないだろうか」
「そ、それは見栄で言っているのかも知れんし、ペースは人それぞれでいいのではないか?」
自分では確認出来ていなかったが、俺は汗でダラダラであったと思う。 ドレイスは納得したのか、そうか、と言った後は目の前の甘味を平らげることに集中したようだ。
俺個人としては、彼女の愛読書『週刊女性ジャッジ』の内容はどうかと思われる。
上流階級のヒマな御婦人達に好まれているらく、
昼ドラも真っ青な内容の官能小説やらが掲載されているらしい。
(決して俺が読んでいる訳でないぞ。多少は気になるが…)
学生にも目に留まるような雑誌なら掲載内容に気をつけるべきだ。
ドレイスにはマニュアル的な人間にはなって欲しくないのだ。
まぁ、そのことについてもおいおい話合っていこうと思っている。
決して俺が中身が見られない為の妬みなどではない、と断っておく。
*
フルーツパーラーを後にして、とうとうドレイスが家にやってきた…!!
彼女も休みの日までジャッジの話などはしたくないだろう。
とりあえず、茶でも飲みながらアニメビデオでも見せるべきだろうか。
玄関を開けるとバッシュが出迎えてくれた。
「やぁ、いらっしゃい。いつもノアがお世話になっているね」
ニッコリと微笑んでバッシュはドレイスの手をぎゅっと握る。
バッシュに他意はない。
だが兄とは言え、他の男に彼女を逢わせるのは内心穏やかではない。
浪人中で家で勉強をしているバッシュに彼女が来るから出て行けとも言いにくかった。
「ではごゆっくり。ノア、私は自分の部屋で勉強しているから」
そういってバッシュは襖を閉めて自分の部屋へ戻っていった。
「感じのいい兄上だな、ガブラス」
「あ、ああ。そうだな」
いざ2人きりになってしまうとなんだか畏まってしまう。
俺の部屋は特に面白いものが置いてある訳ではない。
学校で使用する教科書や数少ないゲーム(PS3は高いのでまだ手は出せない)
が置いてあるくらいだ。
殺風景な部屋をドレイスはまじまじと眺めていた。
「悪いな。何も無くて」
「いや。ちゃんと片付いていて感じのいい部屋ではないか」
ドレイスはベッドの端にちょんと座って楽にしているようだった。
…ううむ。ベッドになりたい。
「これを見てもいいかな?」
ドレイスが手に取ったのはアルバム…相手の幼少時は気になるところ、ということか。 別に隠さなければならない過去は無いのだが…。 どうぞ、と示すと彼女はアルバムの表紙を捲りはじめた。
…しばらくするとドレイスは腹を抱えて笑いだした。
俺はやっぱりと思い彼女の横に座ってそのページを覗き込んだ。
撮影しているのは大体母親で、俺とバッシュが一緒に写っていることが多い。
幼い頃から何度も注意しているのだが、写真となるとバッシュはすぐに前に出たがるのだ。
しかも必ずといっていいほどピースをする。
どの写真もバッシュのピースポーズでいっぱいだ。
後になって恥ずかしいからやめておけ、と言っているのに。
「すまん。…恥ずかしい兄で」
「何故だ。面白いではないか。
兄上より、いつも不機嫌に写っている卿が面白いのだが」
言われればそうだ。
「決してバッシュが目立っているから不機嫌な訳ではないぞ」
「あぁ、卿達兄弟が愉快な双子だということが分かった」
ニコリと微笑みこちらを向いたドレイスと目が合った。
お互いの顔が近い。俺の心拍音が一気に上がるのを感じた。
「ド、ドレイ…」
「ノア、ちょっといいかな?」
ガラガラ、と最悪のタイミングでバッシュが入ってきた。
「何か用か、バッシュ」
思いっきり不機嫌な声で言ったつもりだったが、本人は気付いた風もない。
「せっかくだからお茶でもと思ってな」
バッシュはトレイを手にし、その上には2人分の紅茶とケーキが乗っていた。
「…気を遣わせたな。じゃ!!」
そう言ってバッシュを追い出そうとする。
折角2人きりになれるチャンスなのだ。これを逃したくはない。
「宜しければ、兄上殿も一緒でどうだ?」
…ドレイスがそんな俺の気も知らずこんなことを言い出すものだから、
こちらとしても拒否できない。
「それではそうしようか」
バッシュはちゃっかり自分の分のケーキセットを用意していた。
バッシュめ…。兄ならば気を遣って断ってくれるべきではないのか!
バッシュ、お前は俺が倒す…!!!
はじめはバッシュが持ってきたケーキがどこどこの新商品でなど、
どうでもいい会話をしていたのだが、
ドレイスがアルバムを見ていたものだから、間、間でバッシュが口を挟んできた。
「そうそう、このときはノアが動物園のライオンを怖がってね…」
などどみっともない話をドレイスにするものだから、バッシュをおもいきり睨みつけてやった。
本当の事を言うと、そのときはバッシュが張り切ってライオンの檻に身を乗り出すから
危ないと思いバッシュを支えようとして、俺が檻の中に落ちかけたのだ。
泣きそうになって当然ではないか…!!
「そしてそのときのノアといったら…」
もういい。好きなだけ俺をバカにすればいいんだ。
ドレイスも楽しそうにしているし…
…!!駄目だ、駄目だ!彼女が俺よりバッシュを好きになってしまったらどうするんだ!
「…なぁバッシュ、そろそろ」
「そうだな。そろそろお暇しよう」
ドレイスはそう言って立ち上がった。
そ、そんな…!!
何時の間にかそんなに時間が経っていたのか?
バッシュにヘイスト掛けられたとしか思えん!!
「ノア、ドレイスを送っていってあげなさい」
「…分かった」
後でバッシュとは深く話し合う必要がありそうだ。
*
「今日はあまり構うことができなくてすまない」
帰り道、俺は心からドレイスに詫びた。
「何故だ。私はとても楽しめたが」
「バッシュはいつも一人で家に居る為か、誰かが来るとよく話したがるのだ」
「うむ。今日の兄上は卿の自慢話ばかりであったな。
弟想いのいい兄上ではないか。実にうらやましい限りだ」
清々しい顔で伸びをする彼女の姿を眺めつつ?と思う。
俺的にはバッシュに邪魔されていたとばかり思っていたが、そうでは無かったのか?
そういえば、ドレイスと2人きりだと緊張して何を言っていいのか分からなかった。
あのままでは彼女につまらない思いをさせていたかも知れない。
バッシュがそんな様子に気をして間に入ってくれたのだろうか。
2人に発展は無かったが、取り合えずこの件でバッシュを怒るのは止めておこう。
「ではガブラス、また明日」
「ああ」
なんだかもどかしい気持ちだったが、彼女が満足したらしいのでこれでよいのだろう。
ドレイスを送り、家に帰ったらバッシュがにこりとして出迎えた。
「おかえり、ノア。ドレイスは可愛らしいヒトだったな」
バッシュの悪気の無い笑顔を向けられると毒気を抜かれてしまう。
「あ、ノア。お前ケーキ残していたから食べてしまったが構わんな?」
「食べてから聞くな!」
ああ、やっぱりバッシュは何考えてるのか掴めん!
どうも俺はバッシュにもドレイスにも弱い気がする…。
それは決して嫌なものではなかったけれども。
続き