「今日、私は生徒会があるから先に帰っててくれ」
いつも一緒に帰っていたザルガバースからそう告げられたのは昼休みのこと。 帰宅部であったガブラスには学校での用事は殆ど無いに等しかったが、 ザルガバースは月に2〜3回生徒会会議の為、遅くまで学校に残っていた。 変わり者の生徒会長ヴェインと一緒だと今日も彼は胃薬を手放せないことだろう。
さっさと帰って夕飯の支度をしているであろうバッシュの手伝いでもしようと考えていた矢先、
同じく下校しようと先を歩く愛しいドレイスの姿が目に入った。
(ど、どうする!?一緒に帰ろうと誘ってみるか…?
クラスメートなんだ。誘っても可笑しくないな、うん)
ガブラスが自問自答していたその頃。
校舎の屋上から双眼鏡を使ってその様子を見入っている者が居た。
「あ、見て下さいザルガバース!あの奥手なガブラスが行動に移すようですよっ!」
嬉々として後ろに控えるザルガバースに語りかけたのは、 近所の小学校に通うヴェインの弟、ラーサーであった。 ラーサーは何故かガブラス×ドレイスファンで、 暇さえあれば彼等の行動を追っかけるストーカーのような子供であった。
ザルガバースはそんなラーサーの行動を窘めようと思いつつ、 彼が生徒会長の弟ということもあり言うに言えず、 ガブドレ応援を何時の間にか手伝わされる羽目になっていた。
ラーサーは背中のランドセルに押されるかのように屋上の金網に張り付いて活き活きと表情を綻ばせた。
「給食のデザートのプリンを泣く泣く諦め、急いで来たかいがありました。
いつもガブラスとドレイスを見守ってくださってお疲れ様ですね、ザルガバース。
労いに卿の家に『つぶつぶポーション』を10ダース程送っておきます」
「いえ、お気持ちだけで結構です!」
ザルガバースはいつもラーサーから送られてくる妖しい飲み物を消費する為に、
無理矢理昼食の際に飲んでいたが、コレがパンにもご飯にも合わず、
どうしたものかと毎日悩んでいた。
ただでさえ不味いポーションにタピオカが入っているのだ。
何故『つぶつぶ』仕様にしたのかが分からない。
これが『つぶつぶオレンジ』ならどれだけ良かったことか。
親友達に黙ってラーサーの行動を手伝っていることにも後ろめたいのに、
これ以上悩みを増やさないで欲しい。
「ラーサー様、私はこれから生徒会の会議があるのですが…」
「あ、兄上には適当に言って断っておきましたから。卿はこっちを優先してください」
ラーサーの言葉にザルガバースは胃がキリキリとなるのを感じたが、 コレは後で例の『つぶつぶポーション』で回復しようと考えた。 取りあえず、今はラーサーと共にガブラスの様子を見守ることにした。 ザルガバース自身、ガブラスとドレイスがあまりにも進展しないので、 何か手はないものかとヤキモキしていたのだ。
再びガブラス君の『一緒に下校★ラブラブ作戦』の現場に戻る。
おたおたしていたら、ドレイスが帰ってしまう!
決意したガブラスはいかにも今現れたようなフリをしつつ、思いきって切り出した。
「ど、ドレイス!今帰りとは偶然だなっ!俺と一緒に帰ってしまおう!!!」
「あ、ガブラスか。どうした?そんなにプルプルして…。
私は構わんぞ。一緒に帰ってしまおう」
明らかに言動と行動がおかしいガブラスを振り返って、ドレイスは同意した。
ぱあぁぁぁあ!!
ガブラスは自分の周りに色とりどりのお花畑が見えた気がした。
かくして、ガブラスはドレイスと一緒に下校するという恋へ成就の第一歩を歩き出した。
…その後ろからはラーサーとザルガバースという出歯亀組が付いてきていたが。
*
ガブラスとドレイスが一緒に歩いている間、とくに会話も無かった。
ドレイスは元々マイペースなのかそんな空気はまったく気にしていなかったが、
ガブラスは気まずい雰囲気をどうしたものかと頭をグルグルさせていた。
(何か気の効いた楽しい話題を…いやしかし何を話せば…
このままではつまらぬ男と思われそうだし…
だが女性ウケしそうな会話など思い付かん)
ガブラスはそうして頭からプスプスと煙を上げていた。
「そこの2人、ちょっと待て」
人目に付かない高架下に差し掛かったとき、何者かに声を掛けられた。
一人は体格のいい、強面の男。
もう一人はいかにも頭脳派の嫌味そうな男。
ドラ○もんでいうジャ○アンとスネ○というところだろうか。
典型的且つお約束な悪者2人組みだ。
(こいつらウチの札付きじゃないか!イヤな予感が…)
顔を青ざめるガブラスをよそに、ドレイスは表情も変えずに問うた。
「卿らは隣のクラスのベルガとギースではないか。何か用か?」
「なんとなく状況でわからんか?我々はお前達を脅す為に現れたのだ。
大人しく手持ちのギルを渡してもらおうか」
「カツアゲか…。
あいにくだが、私は今日『週間女性ジャッジ』を購入してしまったので、
手持ちは100ギル程度しか持っていない」
ドレイスに続き、ガブラスも
「俺の家は貧乏だから…」
とサイフをベルガに差し出した。
ベルガはその寂しい中身に眉をひそめて
「なんだか可哀想になってきたな…。ま、まぁカツアゲは許してやろう。
そのかわりと言ってはなんだが、ドレイスにちょっと付き合って貰おうかな」
「な、なにィ!?」
ベルガのセリフにガブラスの身体に衝撃が走る。
「私は何をすればいいのだ?」
ガブラスの様子に気が付かないドレイスは、ベルガの目を見て聞いた。
「う〜ん…そうだな。一緒にお茶をしたり、おしゃべりしたり…」
「なんだ。私はてっきりムリヤリ○○○とか○○○○○とかヤレと言われるかと思ったぞ」
「な、なんてイヤらしい事言うんだ、お前!」
「女の子がそんな事言っちゃイカン!」
ドレイスの放送禁止用語にベルガとギースは真っ赤になって慌てた。
「…なんだか健全な不良だな、卿らは」
ドレイスは多少呆れ顔で2人の悪人?を見遣った。
そんな様子を電柱の影から見ていたラーサーとザルガバースだったが…
「どうしましょう?ザルガバース。
なんだか絡まれているようですが…手を貸した方がいいでしょうか?」
「ここでガブラスがイイところを見せてくれれば格好がつくんでしょうが…
まぁドレイスが居ますし、大事には至らないでしょう」
は?とラーサーはザルガバースを見上げたが、
まぁ見ていてくださいとばかりにザルガバースは微笑んだ。
「別に用事も無いし、私は一緒に行っても構わないが」
「じゃあ、ドレイスは俺達と遊んで貰おうかな」
ベルガは言いつつドレイスの肩に手を回しその場を後にしようとしたとき。
「ま、待て!ドレイスから手を離せっ!!」
「そうだ。折角だからガブラスも誘ってやってくれ」
ドレイスのなにが折角だからか分からない言い分に
「いや。我々は男とお茶を楽しむ趣味はない。ガブラス、痛い目を見ない内にさっさと帰れ」
ギースはキッパリと言い放ち、ベルガは無視を決め込んだ。
「…っ!!そうはいくか!」
ガブラスはドレイスからベルガ引き離そうと立ちはだかった。
ベルガは掴み掛かろうとするガブラスの利き手をやすやすと取って、
別の手での襟首を掴んで塀に叩き付けた。
力ではベルガに遠く及ばない。
ガブラスはベルガを睨みつけながら、ギリリと唇を噛んだ。
「おいおい、ガブラスに乱暴するな」
急な展開にドレイスは慌て、ギースとベルガはニヤニヤと鼻先で嗤った。
「弱いのに抵抗しようとするからだ。彼には分相応というものが分かっていないようだな!」
「…ガブラスを馬鹿にしたな?」
強く頭を打ったのか、ガブラスはフラつく自らの頭に叱咤する。 目の前ではドレイスがギースとベルガを軽々投げ飛ばしてのしてしまっていた。
そうだ。
彼女は強く、守る者が居なくとも己で身を守れるのだ。
自分には何が出来たのだろう。
ガブラスは自分の腑甲斐無さを痛感し、身体から力が抜けるのを感じた。
「…ガブラス。ガブラス、しっかりしろ」
うっすらと目を開ければ、目の前にドレイスの心配そう顔が目に入って。
あぁ、そんな顔しないでくれ、すぐに起きるから。
ガブラスは気は付くと公園のベンチで寝かされていた。
ドレイスが膝枕をしてくれていたので気恥ずかしくなりすぐに起きようとしたが、
頭にドレイスの手が添えられていて、動けずにいた。
「もうあいつらは追い払ったから大丈夫だぞ」
「そうか。俺は何も出来ずに…情けない男ですまん、ドレイス」
「何を言う。私を守ってくれようとしたじゃないか。…嬉しかったぞ」
優しく微笑むドレイスの声はガブラスの耳に心地よく響いた。
「本当は俺の手で救いたかったのだが、どうやら力が足りなかったようだ。
…ドレイスは強い男が好きなのだろう?」
「うむ。私より強い男が好きだ。卿のように、強い心の持ち主が、な」
ドレイスは今だ動けないガブラスの額にそっと口付けた。
*
次の日、学校に来てみると掲示板の前に人だかりが出来ていた。
何の騒ぎかとガブラスは人の間をかき分け覗いてみると、
生徒会新聞号外が貼り出されていた。そこには見出しに
『ショック!!ジャッジ・ドレイスに新恋人発覚!?』
と書かれており、自分とドレイスの公園での2ショット写真が載せられていた。
掲示板の下にはドレイスの取り巻き共が
「ドレイスお姉様に男が居たなんてショックだわ〜」
などと言い合っていた。
何故かドレイスは女子ジャッジ達に人気がある。
あの立ち振るまいが一部の女子にはツボで、男には脅威を抱かれるらしい。
それはとにかく、俺はあのときの様子を人に見られていたことに衝撃を受けた。
「な、なんだコレは!何時の間に撮られていたんだ!?」
頭の中が真っ白になったガブラスの頭に友の声が響いた。
「あぁ、私が撮ったのだ、ガブラス。卿達には悪いと思ったのだがな」
「ザルガバース!友ならばそっと見守るくらいに抑えておいてくれ!」
「卿の言う通りだが、ラーサー様がめでたいことは皆に知らせるべきだと申されてな」
「な、なんてことだ…。こんなものがドレイスに見つかったら…」
「もう見ているぞ」
ビクッと肩を震わせて振り返ると聞き覚えのある声…ドレイスが掲示板を見ていた。
「なかなかよく撮れているな、ザルガバース。後でネガを頂きたい」
「承知した。勝手に掲載してすまなかった」
すまないで済むか!と思ったが、
ドレイスが怒りを見せないのに自分だけ怒るのは子供じみた気がして止めた。
「学園公認の仲というのもいいじゃないか?」
ドレイスが微笑みながら言うものだがら、俺の中の怒りの炎は鎮火していった。
…正直目立ったことは苦手なのだ。
だが遠慮せずに彼女の側に居られるのなら悪くない。
ドレイスと共に教室へ向かう。
この小さな幸せがずっと続けばいい、と切に願う。
続き