それは春の日差しが心地よく、とても穏やかな日でした。
ガリークランのメンバーはいくつかの依頼を一気にこなした事で、皆に疲れが溜まってましたので、暫くタルゴの森に留まり、疲れを癒す事にしました。
この日最後の依頼にケリが付き、エンゲージ帰りのメンバー達が帰ってきたところの事でした。 先に出撃メンバー以外はパブに戻り、仲間が帰ってきてすぐに休めるよう、宿の手配などをしていました。
ハーディはこの日の出撃ではなかったので、帰ってきたメンバーを労っていました。
疲れてヘトヘトの仲間を見ていて、ハーディは出撃しっぱなしのシドとルッソに声を掛けます。
ハーディはこのところずっと思うところがあったのです。
「ルッソ、とても疲れてるクポ」
「うん、まぁね。でも今のアビリティ早く覚えたいし、楽しくエンゲージできてるからいいんだけど。
今日は早いところ寝て、ゆっくり休むよ」
ルッソはそう言うと、ハーディの頭をモフモフと撫でて、さっさと寝室へ行きました。
ハーディはそれを見送ると、今度は肩を揉み揉みしているシドの方へ駆け寄りました。
「シド、いつも大変そうクポ」
「ン?まぁな。これでもリーダーだし、クランの連中のことも考えながら戦わなきゃならねぇしな」
「シドとルッソはここんとこずっとエンゲージに出っぱなしクポ。確かに2人は強いからエンゲージが有利に運べるのは分かるけど…。たまにはちゃんと休んで欲しいクポ」
「ハハ。心配してくれて有難よ。こっちも無理が出ないようにはしてるンだがな」
「その…。モグが替わりにメンバーに加わっちゃ駄目クポ?モグだってやるときはやるクポ」
「あぁ、必要だと思ったときには出て貰うからな。そのときまでゆっくりしていてくれ」
シドは微笑んでハーディのポンポンを大きな手でポフポフと軽く触ると、ゆったりと寝室へ向かいました。
「クポ…」
ハーディはもっと何か自分の中のモヤモヤをシドに伝えたかったのですが、上手く言葉にすることができませんでした。暫くはその小さい手をもじもじさせて考え込んでいましたが、やがてブンブンと首を振って自分も寝室へと向かいました。
*
深夜、なかなか寝付けなかったハーディは、ベッドから出てよいしょ、と側にあった出窓によじ登りました。その縁に座って暫く綺麗なまんまる満月を眺めていました。すぐ隣ではルッソが小さくイビキをかきながら、もぞもぞと寝返りを打ち、ポリポリとお尻を掻いていました。ハーディはその様子がなんだか可笑くて、ひくひくと鼻を動かしてクスリと笑いました。きっと今日のルッソはとても疲れたのでしょうね。
自分もさっさと寝てしまおうとベッドに向かったハーディですが、反対側で寝ているシドの様子がおかしい事に気が付きました。なんだかウンウン言って寝苦しそうです。よく見ると額にはうっすら汗が滲んでいて、うわごとのように「イルーア…」とかなんとか唸っています。
ハーディはうなされるシドを見ながら、どうしたものかと慌てました。疲れているシドを寝かせてあげたい一方、このまま苦しそうにしているのも可哀相に思えます。小さな頭を抱えて悩んだ結果、やっぱりこのままではちゃんと眠れないだろうと、起こす事にしました。
「シド…シド!!」
「…ン?どうした、ハーディ」
「シド、うなされてたクポ。何か悪い夢でも見たクポ?」
「そうか。うなされてた、ねぇ…。悪い夢だか、いいンだか」
シドは居心地の悪そうにポリポリと顔を掻いていたので、ハーディはそれ以上聞くのを止めました。
「疲れていると悪い夢を見ることがあるって聞くクポ」
「そうか。情けないリーダーで悪ィな」
「そんな事、ないクポ。…モグの方が情けないクポ」
「ン?何がだ?」
ハーディはシドのベッドの端にちょん、と腰を下ろすと、俯いてポンポンをへにょりと垂れさせながら語り出しました。
「モグはルッソの為に歌を作りたいと一緒に付いて来たけど、歌じゃエンゲージで敵も倒せないし、強い武器も持てないし、チョコボ士にもなれないから役に立てないクポ。ひょっとするとモグはすぐやられちゃうから、みんなの足手まといになってるかも知れないクポ。みんな優しいから言わないけど…モグは…モグはこのクランに必要ないんじゃないかって思うクポ」
最後の方は消え入りそうな声でハーディは呟きました。その目には大きな涙の粒が浮かんでいます。
シドはその目をじっと見つめながら、ハーディの言葉のひとつひとつを逃さず聞いていました。
「そうか。それで悩んでいたンだな?」
「…クポ」
シドは大きくため息を吐き、腕組みをしながら自分のヒゲを撫でていました。それを見たハーディはきっと呆れられたのだろうと、さらにしょんぼりしてしまいました。
「気付いてやれなくて悪かったな」
「クポ?」
「いいか、ココ最近のエンゲージは魔法が効かないタイプの敵が多かったンで、おまえを使わなかったンだ。おまえに武器で攻撃して貰おうと思ってる訳じゃないし、すぐにやられるのは敵に近い場所におまえ配置しちまった俺の采配ミスに過ぎないンだぜ?」
「…クポ」
「おまえは『歌じゃ敵も倒せない』っていうが、それでいいじゃねぇか。敵は倒せなくとも、俺達を補助できるだろ?その『歌』はおまえしか歌えないンだぜ?おまえにしかできない事がある、だからおまえはこのクランに必要なンだ」
「………」
「誰にだって得手・不得手はある。自分に出来る精一杯の事をすればいいンだ。俺はガリークランの誰一人、不要だとは思っていねぇ」
ハーディは自分を必要だと言ってくれた事がとっても嬉しくて、その顔は涙と鼻水でぐじゅぐじゅになってしまいました。ニカっと笑うシドを見ながら、ハーディはその首にひしっと抱きつきました。シドはその小さな背をポンポンと叩きながら優しく語りだしました。
「こんな小さな身体に溜め込みやがって。俺の方こそ、不安にさせちまってゴメンな」
暫くスンスンと泣いていたハーディですが、ふと思い付いたように、耳をぴくりとさせました。
「そうだ!シドがよく眠れるように、モグが子守歌を唄ってあげるクポ!」
「子守歌だぁ?おいおい、俺は子供かよ」
「いいから早く横になるクポ!遠慮は要らないクポ!」
「あぁ、分かったよ」
ハーディが言い出したらきかない意外と頑固なところがあるのをシドは知っておりましたので、素直に唄って貰うことにしました。
すう、と大きく空気を吸い込むと、ハーディは澄んだ声で唄いだしました。 どこかで聴いたことがあるような優しい、優しい旋律。 シドはゆっくりと目を閉じて、癒しの歌に耳を傾けました。
暫くすると聞こえなくなったので、どうしたものかと顔を上げると、ハーディはシドのお腹の上でスヤスヤと眠っておりました。
シドはハーディの上にそっと毛布を掛けてやると、窓の外で輝く満月を見つめました。
「イルーア、今のおまえには癒しを与えてくれる相手はいるか…?」
(08.3.10)