バティストの風

事の発端は、ローアが装備品に源氏の盾を選んだ事から始まったんだ。
俺には理解できないが、特に女って奴は“シリーズもの”てのに弱いらしい。よく、ポーションのキャップの部分にチョコボのディフォルメされたキーホルダーや、おたからのミニチュアなどのいわゆる『おまけ』が付いていることがあるだろ?ローアの奴、ああいうのを集めるのが好きなんだよ。一個買うと全種類集まるまで買い続ける。そいつが期間限定だったりすると、俺ら他のメンバーまで痛くもないのにポーションを飲まされるって始末だ。

どうせ、長い事持っておけないんだから、そこそこにしとけって言うんだがな。集める事に意義があるらしい。そういう訳の分からん心理をついてくる『コモドポーション』のモノを売る為の手なんだろう。ローアはあっさり引っ掛かってくれるんだよ、これが。『コモドポーション』の思うツボさ。まぁこんなあこぎな仕事してるモンだから、そういう数少ない楽しみをアイツから奪うつもりは無ぇがな。

ポーションはいい。旅の必需品だし、30ギルかそこらだろ?なんとなく言いたい事が分かってきたか?そうだよ、今度はローアの奴、“源氏シリーズ装備”に目を付けやがったんだ!

最初はやたら肌むき出し全開のローアに怪我させねぇように、と防御力の高い盾を用意してやったんだ。あんな古風なデザイン、そのうち飽きると踏んでたんだ。するとだな、『欲しい』とは言わねぇんだぜ?ただ、ショップに飾られている源氏の鎧を、ショーウィンドゥにベターっとスッポンみてぇに張り付いて眺めてやがるのさ。まぁ、欲しいんだろうな。

一応、アレを作る為の素材は揃えてあるんだが、盾買ったばかりだからな。持ち合わせが無かったワケだ。クランのメンバーは必要最低限の小銭はそれぞれ持ち歩いているが、クランの金はツィーゲルが取りまとめているんだ。俺が持っているとそのうち酒に変わりそうだからな。ああいう手堅い奴に任せておくのがいい。そんなツィーゲルが装備を買ったばかりなのに、さらに新しいのが欲しいなんて言ったら、あの犬顔の眉間にしわが寄る事、間違い無い。ローアもそれが分かっているモンだから、涎を垂らしてただ見ているだけなんだ。

「なぁ、ツィーゲルよぉ」
「駄目だ。この前、高額なもの買ったばかりだろ?バウエン、お前はちょっとローアに甘すぎだ」
「分かってるって。だから、ちょっと実入りのいい仕事をしようってんだ」

俺はツィーゲルに目で合図を送ると、その足でパブへ向かった。結構、依頼が届いていて、俺は一枚一枚手に取って選んでいた。数枚目。上客からの依頼だ。報酬額はイマイチだが、相手に苦戦しているらしく、上手くいけば上乗せして貰えそうな依頼人だった。俺はテーブル席で待っていた仲間の元に、上機嫌で向かっていった。

「バウエン、いい仕事あったっぽいな」
「あぁ。…なぁローア。お前、『源氏の鎧』欲しいんだろ?」
「えっ!?ん、まぁイイナーとは思ってたけどなっ。鎧の中でもアレが一番高いからな…」
「よく分からんな。アレはウォリアーやソルジャーとかムサイ連中向きだろ?」
「何言ってんの?バウエン!『源氏の鎧』の良さ、分かんないのか?」

ローアは立ち上がってテーブルをバンっと叩き、うんちくを語り出した。鎧の縫い目の始末の仕方や、繋ぎの職人技の事や、微妙な色合いの良さだかなんだか。お前は、武人か!と言ってやりたいところだ。ツィーゲルやヴィスはまた始まったか、と呆れ顔だ。

「ローア、女の子ならもうちょっとかわいらしい防具とかどうだ?ミネルバビスチェとかよ」
「えぇ〜。バウエン、ああいうの好きなの?イヤらしいなぁ」
「イヤらしい服は俺の目の保養にもなるから着とけ」

俺がイヤらしいかどうかは置いといて、正論だろ?ローアがあの厳つい防具を装備してるところなんざ、想像できるか?

「っていうか、防具新しいの買っていいの?」

ローアは嬉々としてシッポを勢いよくピコピコと振る。分かりやすいヤツめ。

「今度の仕事が成功したらだぞ?」
「しよう、しよう!ドコの仕事だ?」
「ユトランド治安維持局だ。よくあるいつものヤツさ」
「手配書か」
「ここの仕事はよく引き受けてやってるからな。上手くいけば依頼料にも色を付けてくれるかも知れん」

他のメンバーにもよく見えるよう、テーブルの上に手配書を広げた。

「げ。脱獄犯じゃん!手強そうだな〜」
「だが、その分実入りがいいってコトだ。お前ら覚悟しとけ」

ローアとツィーゲルが頷く中、ヴィスが眉を潜めて手配書を読み直していた。

「…どうしたヴィス」
「脱獄犯だというから、どんな猛者かと思ったが…相手は少女だそうだな」
「え!?」

俺もターゲットの詳しい情報まで目を通して無かったものだから、驚いて皆と顔を見合わせた。

「これは何か特殊な能力を持つ相手であることは間違いない。気が抜けぬな」

相手が何であろうと、バウエン一家にできない仕事はねぇ。一度受けた依頼はやり遂げてこそ、プロの賞金稼ぎだ。皆、姿の見えない相手に改めて気を引き締め直した。

ターゲットの出没する場所はバティストの丘だ。
ここいらは緑や動物が多く、景色がとても美しい。本来ならば、ゆっくり自然を見物でもしていきたいところだが、仕事で来ている為、皆の気持ちにそんな余裕は無かった。

「なんだか少女って言ったら、普通の観光客と見間違いそうだねぇ」
「手配書の似顔絵を見る限り、ローア。お前と同じグリア族だな」
「う〜ん。複雑だなぁ」
「だが、これが終わったら、『源氏の鎧』だろ?」
「そうだった!源氏っ、源氏っ♪」

ローアが浮かれてスキップして先へ行こうとしたその時。ヴィスがその秀麗な鼻をピクリとさせた。

「………シッ!何か、強い気配を感じる。これは複数か?」
「ヴィス、一体どうし…うひゃっ!!」

後方のヴィス振り向こうとしたローアは、突然何かに引っ張られるように木の上から逆さ釣りにされちまった。

「ローア!!」
「バウエン!何かが足を引っ張ってる!」
「あぁ。足元、見ない方がいいぜ」

ローアの足に絡まる、見覚えのあるソレ。にゅるにゅると触手を伸ばすのは御存知、モルボルだ。俺達は反射的にそれぞれの得物に手を伸ばす。モルボルはローアの足に次々に触手を絡めようとしていた。

「うえ〜!気持ち悪いっ!え〜いっ、衝撃波!!」

ローアが放った衝撃波が当たる寸前で触手はしゅるしゅるっと勢いよく離れた。引っ張っていたモノが無くなったローアはぼて、と木の下におっこちた。

「あいて!」
「…大丈夫か、ローア?」
「ちょっとお尻打っただけ!」

ローアもさすが、我が一家の第二主砲。起き上がりざまにシュっと剣を抜いて構える。木の影で全貌が見えないモルボルの姿を睨みつける。

「…気持ち悪いですって?あなた達に言われたくは無いわね」

モルボルがしゃべった?いや、そうじゃなかった。モルボルの触手の間からちっこい顔が覗いていた。今回のターゲットだ。たしか…フローラとかいったか。

「おい…そんなところにいたら、モルボルに…食われねぇか?」
「あなたから見たらモンスターかもしれないけど、私にとってはお友達よ」
「そうか。ならいいが…。それよりおまえ、脱獄犯だそうだな。手配書回ってるぞ」
「私は何も悪いことはしていないわ」
「なら治安維持局でそう言ってくれ。一緒に来て貰うぜ?」
「また私を捕らえに来た人達?森が汚れるから来ないで欲しいんだけど」

茂みの間からモルボルだのキラートマトだのがぞろぞろと出てきて、俺たちを取り囲んだ。

「子供相手に闘いたくはねぇんだけどな。おとなしく来てくれねぇか?」
「あなた達と話し合う余地はないわ」

気乗りしねぇが、こっちもプロだ。お子様のおイタに付き合ってられねぇからさっさと片付けさせてもらうことにした。闘い慣れた俺たちにフローラは動揺したらしい。次々と戦闘不能になっていくモンスター相手に焦りだした。

「どうして…どうして邪魔するの?私は森を守ろうとしてるだけなのに!」
「守る?何から守るんだ?」
「あなた達、ヒトからよ。森の成長の事も考えずに伐採していくから、この地はどんどん痩せていってるのよ」

俺は周りを見渡した。森はいつもと変わらず豊かに緑を成しているように見える。

「傍目には分からなくても、木々は減少していってる。ヒトたちが住みやすくしたいという自分勝手な理由でよ?森に生かされている、という事実に気付こうともせずに…。こうしているうちにこの子達モンスターの住む場所は減っていってるの」
「それで伐採に来る連中を襲ってたんだな?」
「そうよ!私がバティストの丘を去れば、ここはヒトの手によってスグに荒れ地に変わるわ!」

フローラの周りのモンスターも彼女の意見に賛同するように蠢いた。 スグに、は大げさかと思ったが、ヤツの言い分も分からんでもなかった。だが…

「だからってここに来る人間を傷付けていいなんて理由にはならねぇ。そこのモンスターどもは伐採者とただの旅人の区別は付くのか?人が恐れて来なくなったら、それこそこの地は孤立するぞ!」
「ヒトはみんな一緒よ。誰も来なくなればここは安泰なのよ!」
「そんな悲しい事、言うなよ。誰からも忘れられたら、それは孤独だぞ。分かる筈だ、おまえも俺らと同じ 『人』なんだから」
「それを言わないで!!」

フローラは術を掛けようと印を結んだ。だがその両端からローアをヴィスが追いつめ、後ろは崖だ。フローラが風水を使う前に捕らえることができるだろう。術を使う時間が無い、と踏んだフローラは、ローアに攻撃しようと杖を振り上げた。

「あ!よせ、バカ!」

フローラはそのままローアのカウンターを食らい、崖の上から吹っ飛んだ。ヴィスが慌ててフローラの手を掴もうとしたが、間に合わなかった。反射的にフローラは羽根をバタつかせて堪えようとしたが、落下の勢いには抵抗できないようだった。

間に合ってくれ…!!

俺は崖の下に駆け寄って、あわや、というところでフローラを抱き止めた。改めて近くで見たその姿は、ローアよりも一回り小さい、まだほんの子供だった。こんな子供が自然破壊を食い止めようと身体を張って案じているってのに、俺たち大人は目先の事しか考えてねぇ。俺たちは生き急ぎすぎて、自然に目を向けることさえしなかったんだ。俺は自分に恥じて、フローラの姿をまともに見ていられなかった。

「よぉ、おまえ…。身体大丈夫かよ?」
「…どうして私を助けたの?私はあなた達の敵でしょ?」
「見くびるな。子供が死にそうになってるところを見捨てる程、落ちちゃいねぇぜ。それに俺はおまえに対して『敵』という概念はねぇ」
「助けておいて、私を檻に閉じ込めるんでしょ?籠の鳥になるくらいなら、死んだ方がマシだわ」
「バカなこと言っちゃいけねぇよ…!!」

俺は少しばかりぐったりしたフローラに、負担を掛けないようにそっと上を向かせた。崖の上からは、ヴィス、ローアと共にモルボル達が顔を覗かせ、心配そうにフローラの様子を窺っている。

「少なくとも、おまえを必要としてくれるヤツがいる。だったら、死んだ方がマシだなんて言っちゃいけねぇ。自分が死んで、残されたヤツの気持ちを考えた事があるか?」
「みんな…」

モルボルやキラートマトの悲しそうな姿を見たフローラの目に次々と涙が溢れ、終いにはうわ〜んと大泣きして俺にしがみついてきた。そうそう、子供は無理せず泣けばいい。そういう泣ける場所は大人が提供してやるもんだ。そうだろ?

俺達はフローラを連れて、ユトランド治安維持局へ向かう途中だった。一家の面々にも重い空気が流れていた。後ろからローアがつんつん突ついてくる。あぁ、言いたい事は分かるがな。

「バウエン、あのコ治安維持局に突き出すのか?」
「これはビジネスだ。いつも割り切れって言ってるだろ?」
「アタシたちグリア族の中でも、あのコのジョブ『風水師』ってのは何度も難しい試験を通り越して心身共に優れた者しかなれないんだ。あのコ、悪いコじゃないよ」
「この中の誰もが悪いやつだとは思ってねぇよ」
「…うん」

後ろをヴィスに手を引かれて歩くフローラにチラっと目をやる。どうやら覚悟は出来ているらしく、大人しく着いてくる。その少し後ろの木の影に、その姿を隠しきれてない『何か』が触手をにょろにょろ動かして、こちらの様子を窺っていた。さて、どうしたもんかな。

急に俺が振り向いたモンだから、フローラは驚いて身体をビクリと震わせた。

「今迄脱獄できたのは、モルボルが逃がしていたんだな?」
「………」
「このままおまえを町に連れていくと、モルボルも一緒に着いてきちまうな。 おまえ、このままバティストに帰れ」
「…!!私を逃がすというの?」
「勘違いするな。町の中までモルボルを入れるワケにはいかんだろ。だがな、俺が逃がしても依頼を受けた他のクランがこの後もおまえを捕らえようとするぞ」
「それでも私の意志は変わらないわ」

フローラは後ろに控えていたモルボルにひょいと飛び乗るとこちらを振り返った。

「バウエン…。またバティストに来てくれる?」
「あぁ、今度はゆっくり物見遊山して緑を堪能したいな!」

ニコリと笑ったフローラの顔は、年相応に子供らしく可愛いかった。


「あ〜、ローア。残念だが、『源氏の鎧』は買ってやれねぇぞ。依頼放棄しちまったからな」
「うん。バウエンが選んだ選択だもん。間違ってないと思うよ」

ゴホンと咳き込んで誤魔化した俺に対して、ローアは意外とサバサバしていた。ま、怒ってないならいいだろう。そのとき、俺の隣から何かが飛んできた。バシッという音と共に俺の手に納まったのは、大量のギル袋。

「ツィーゲル?」
「…今回だけだからな」
「ほほぉ。ローアに甘いのはおまえの方じゃないのか?」
「今回だけだって言っただろ?…冷やかすなら返せ!」

ギル袋を奪おうとしたツィーゲルの手をひょいと遮る。まぁ、奪うつもりなんぞ無いんだろうがな。何度目かの『今回だけ』を許してしまったツィーゲルはプイと余所を向いた。おまえのそんな所が気に入ってるぜ。

「お〜い、ローア!『源氏の鎧』買っていいとよ!」
「ホントに!?やった〜!早くショップ行こ、行こ!」

喜び勇んでグイグイと俺の腕を引っ張るローアを後の2人が微笑ましそうに眺めていた。 一家の賞金稼ぎのライセンスにはバツ印が付いちまったが、そこそこ悪く無い気分だった。


(08.2.1)



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