とある日のお昼時、身の回りのドタバタが一段落したガリークランはのんびりとランチを食べていた。 タルゴの森のキノコシチューが絶品なのは有名だが、ここの森の幸や鹿などの獣も捕らえられるので食べ物が本当に美味しい。旅人があまりの心地よさにそのまま住み着くこともあるほどだ。
ルッソは暫くゆっくり過ごすのもいいな、と考えていた。
だがリーダーのシドは、クランをやっていくには何かしら依頼を受けなければ皆の士気が落ちるし、何より資金は多いにこしたことはないと言って、何か依頼が届いていないかパブのマスターと話しをしている。
「あ〜ぁ、ちょっとゆっくりしててもいいのに」
「何言ってるのよ、ルッソ。あんたいつもエンゲージしたがってるのに」
「そうだけど。ここのところ妙なヤツラに狙われてて大変だったじゃん」
妙なヤツラ。
その正体はカミュジャだが、ヘタにその名をおおっぴらに出すのはマズい、と公の場で語ることをシドから禁じられている。
「シドも最近考え込むこと多くなっただろ? 休んでくれればいいのに、と思って」
「じっとしてると余計にいろいろ考えちゃうんじゃない? それよりお昼、さっさと食べなさいよ。あとアンタだけよ?」
アデルの指摘に周りを見渡すと仲間の皿は綺麗に空になっている。
ルッソは慌てて残りを口に放り込んだ。
そんなルッソが見下ろす皿にふと影が落ちた。
何事かと顔を上げると、後ろに妙な顔をしたシドが突っ立っている。
ここ最近見る悩む顔でも険しい顔でもない。
「シド、そんな所に立たれると影になって暗いんだけど」
「…あぁ、すまねぇ」
何かを思い直したシドはドスンと大きな体を椅子に落ち着ける。
「どうだったクポ? 依頼、届いてなかったクポ?」
心配そうに覗き込むハーディの問いに落ち着かないように目配せしたシドは、深い溜息の後、こう言い放った。
「依頼は受けてきた。 おまえら、聞いても嫌がンなよ? 今回の依頼主はシャンメルお嬢様だ」
え〜…。皆、一斉にげっそりした顔になりガクリと肩を落とした。
『シャンメル・シィ・ヒースカリス』
ヴィエラ族のお嬢様で、今までガリークランは何度か彼女の依頼を受けている。決して根は悪い娘ではないのだが、お嬢様ゆえ世間を知らないというか。その悪意のない無茶な依頼に皆、手を焼いたものだった。
アデルは依頼を受けてしまったのなら仕方が無い、と呆れた声で聞いた。
「で?依頼は何だったの?」
「あるクランにエンゲージを申し込んだから、共に戦って『勝利』を見届けて欲しいンだそうだ」
「また何も考えずに申し込んじゃったワケ? …仕方ないわね。 相手はどこなの? デスアンパイア? それともガストオブカモア?」
その後シドが放ったクラン名に全員が凍り付いた。
*
「事情は分かった。だから俺達にどうしろと?」
渋顔で唸ったのはガリークランとも馴染みの深いバウエン一家のリーダー、バウエンだ。恐れを知らぬというか、シャンメルは泣く子も黙るバウエン一家に決闘を申し込んだのだ。
「手間掛けさせて悪ィのは分かってる。 取りあえず、お嬢様が納得しなければ何度も依頼を受けなきゃならねぇ。 気晴らしに俺やルッソは思いきりやってもいいから、シャンメルに倒されてやってくれねぇかな」
あんまりな言われようなルッソは置いておいて、そう言って頭を下げるシドを暫く見つめた後、バウエンはシャンメルの方を見遣った。
「おい、お姉ちゃん。 本当に俺達に勝つ気でいるのか?」
「当然です! 強豪と名高いバウエン一家ならば、このシャンメルのクラン対決デビュー戦に相応しいと認めます!」
腰に手を当て、ビシィっとバウエンに指差すシャンメルにガリークランの面々は慌てた。
「うわ〜! めちゃくちゃ言わないでくれッ! 只でさえ無茶お願いしてるのに!」
「そうだクポ! これでバウエン一家に嫌われたりしたらヤダクポ〜!!」
バウエンはシドに向き直り、言い放った。
「彼女はああ言ってるし、俺達は本気でいくぜ。 お姉ちゃんに怪我させたくなかったら手を抜くなよ」
「そうか。 分かった、なンとかしてみせるさ」
溜息を深く吐いて、シドは覚悟を決めた。 バウエン一家にしてみたら、本気で来る相手を舐めてかかるのは失礼に当たるのだろう。
ここに『シャンメルを守りつつ、すべての敵を倒せ』のエンゲージが開始された。
*
お互い強豪クランゆえダメージは酷かったが何とか勝つことが出来た。
シャンメルはと言うと、少しツィーゲルの幻術を食らったくらいでピンピンしていた。
「強豪と言うわりには、たいしたことなかったわね」
白魔道士に治療を受けつつ、ガリークランのメンバーは苦い顔でシャンメルを見つめた。
「お嬢様よぅ、満足してくれたか?」
「そうね。 バウエン一家をこの手で倒したと言ったら、お父様喜んでくれるかしら?」
「喜ぶんじゃないの?」
疲れ果てて地面に座り込むアデルのセリフを聞いてシャンメルは大きく頷いた。
「これも皆さんのおかげです。 これ少ないですけど、お礼にどうぞ」
シャンメルの差し出した紙袋を受け取り、アデルは何かと中を覗いてみた。
「キャー!! これガルミア・ペペの限定の新作じゃないっ! 貰っちゃっていいの!?」
「私も同じものを持っているから。 では皆さん、ごきげんよう」
去って行くシャンメルに笑顔で手を振るのは、すっかり元気になったアデルのみだ。
「シド。 俺、女の子には気を付けるよ」
「あぁ。やっとルッソにも女って生き物の難しさが分かるようになったか」
二人はお互い疲れ切った顔を見合わせ、苦笑した。
*
あの大変だった戦いから数日後、ガリークランはタルゴの森のパブで食事中のバウエン一家と遭遇した。 少し気まずい空気が流れたが、すぐにシドがバウエンに歩みより件の戦いの礼とお互いの健闘を讃えた。 シドが求めた握手にバウエンはすぐに応えた。
「あの後は本当に大変だった。 奥歯がガタガタで暫くモノが食えなかったからな」
「アハハ! バウエンはすぐバックドラフトするから余計なダメージ食らうんだよ」
食べ物を取りに行ってて戻って来たローアが、椅子に座るバウエンの後ろから首根っこにしがみついた。
「うるせぇな、ローア! バックドラフトは闘士のロマンなんだよ! あまり人前でベタベタするな。 只でさえ無い小胸が潰れて無くなるぞ」
「ひどいっ! あたしらグリア族は皆こんななんだよっ!!」
「それは可哀想に。 どれ、俺が育ててやろうか?」
「バウエンのばかっ! オヤジみたいなコト言うなって言ってるだろ!?」
両手をわきわきさせて胸に触ろうとするバウエンをポカポカ殴っていたローアは、ふと手を止めて「あ」と呟いた。何事かと皆ローアの見ているパブの入り口を見遣り、そして後悔した。
「探しましたよ、皆さん!!」
「受けねぇ。 もう依頼は受けねぇぞ!!」
ずかずかとパブに入ってきたシャンメルにその場の皆が『嫌』な顔をした。
「お父様がバウエンを倒したなんて信じられないって言うんです。 証拠にボコボコにしたバウエンさんに一緒に来て貰おうかと思って」
「ふ、ふざけるな!何で俺が…!!」
「あ、でもシャンメルのお父さんって興味あるな。 ヴィエラ族の男の人って見たコト無いもん」
慌てるバウエンを尻目に、皆が「それもそうだ」とわいわい言い出した。
「冗談じゃねぇ! 俺はゴメンだぜ!!」
バウエンは振り向き様そういうとダッシュでパブを出ていった…まではよかったのだが。
ギャーーーー!!
バウエンの叫びに何事かと皆が店を出ると、シャンメルのペットのナーガラージャがしっかりとその首をバウエンに巻き付け、逃がさないようにしていた。 まさか店の外にドラゴンがいるとは思わなくて、さすがのバウエンもあっさり捕まってしまった。 それを見たシャンメルが、ドラゴンの頭を撫でた。
「あ、安心して下さいバウエンさん。 その子は私のペットですので。 きっと私の気持ちが伝わって、捕まえてくれたんですわ」
「これが安心できると思うか〜!?」
バウエンの必死の叫びがタルゴの森にこだました。
(07.12.15)