帝都の中枢にある皇帝宮をぐるりと取り囲むように存在する公安総局。 全部で18の局があり、それぞれに各局の局長としてジャッジ・マスターが在籍していた。
有事の際と月に一度にジャッジマスターが集められ、重役会議が開かれる。 本日も恒例の会議があり、ジャッジマスター達が続々と集まり始めていた。 会議場はそれぞれの局から離れたゼノーブル区に位置し、 会議は始まると議題により長期化するので、 会場に泊り込めるよう、簡易な宿泊施設が設置してある。
多忙なジャッジマスター達は前以って仕事を宿泊所に持ち込んだり、 そこから勤めにでる者も居た。
ジャッジ・ガブラスは会議の前日から任務で慌しく、 会議場に着いたのは深夜、会議の当日に日付が変わるか変わらないかくらいの時間であった。 本来ならば自室に帰ってゆっくりしたいところだが、 これから資料の準備やらをしているとそんな時間など無さそうだ。
ガブラスは仕方が無く、宿泊所に泊まり込むことになった。 特に内装だの設備だのにはこだわらない性質だが、 いくら簡易施設とはいえ、浴場が共同になっているのが気にいらなかった。 狭い1人用なので他のジャッジマスターと一緒に入るなんてことにはならないのが幸いだが、 他人が使用した後と思うと気分が萎える。
仕事の疲れと汗を洗い流したかったので風呂に行こうとすると
途中、ザルガバースとすれ違った。
彼はとくに用事がなくとも前日から準備をし、万全の体制で会議に臨んでくる。
自分が忘れ物をすることがあっても彼に事情を話すと資料を渡してくれる。
ジャッジマスターの中でも他人の事まで気が回るのは彼くらいなものだろう。
今日もいつもと同じく備え万全のようだ。
「ジャッジ・ガブラス。本日も公務に明け暮れていたようだな…これから入浴かね?」
「…そうだ。卿も?」
「いや、私は自室で済ませてきた。お疲れ様」
ポンとガブラスの肩を叩いてザルガバースは去っていった。
…嫌味だろうか?
ザルガバースは堅い人間だと思われがちだが、以外と思考は柔軟だ。
彼は戦術について語るときと、明日の天気を話すときと同じ語調で語る。
冗談かどうかも判断し兼ねるので、どう対応していいかわからない。
とにかく、さっさと明日の準備をして身体を休ませよう。
ガブラスは脱衣場でひとつため息をついて、浴室の扉を開いた。
そこは先程迄誰かが使用していたのか、床のタイルが濡れていた。
ふと浴槽に目をやると、まずそこから出ていた白い脚が目に入った。
そこを辿るとこちらを見ているドレイスと目が合った。
「あぁ、ガブラス。今入ってるぞ」
「…そうか。すまない」
その場はそれだけのやり取りで浴室を出た。 ドレイスの反応がそれだけだったので、焦ることも恥じる間もなかった。 こちらも見られたが、彼女の入浴に気付かなかったこちらが悪いのだから、 通常この場合は彼女が怒るところではないだろうか。
…男だと思われてないのかもしれない。 ガブラスはそんな事を考えながら廊下を歩いていたので、 人とすれ違ったことにも気が付かなかった。
*
「会議だの面倒なことはさっさと終わらせたいんだがな」
ジャッジ・ゼクトは月一の会議が嫌いだった。
ジャッジマスターやお堅い連中と顔を合わせると思うだけでも肩が凝る。
こういった公務に欠席するとお偉い方に目を付けられるので、
仕方無く出席する。
風呂にでも行こうと廊下を歩いていると、
なにやら首を捻り考え込みながら、ジャッジ・ガブラスが風呂場から出てきた。
「あいつは特に苦労が多い任務が来るみたいだからな。疲れも出るだろう…」
その様子を疲労と感じ取ったゼクトは風呂場へ入る。
ここまで見ていた方ならご存知だろうが、今、風呂場ではドレイスが入浴中である。
ゼクト氏の安否は言うまでもなく。
ドレイスの怒鳴り声は建物中に響き渡った。
「そこへ直れ、ゼクト!!叩っ切ってくれる!!」
ゼクトは桶や石鹸を投げつけられ、悲惨な状況にあっていた。
「ま、まて!ドレイス!!確かに私が悪かったのだが…!!
ガブラスはお咎めなしで、私はこの扱いか!?」
「黙れ、このハゲ!!変態はこのドレイスが裁いてくれるわ!!」
「お、俺はハゲでは無いっ!剃っているだけだっ!!」
まだ周辺にいたガブラスがドレイスを宥めて止めるまで、
哀れゼクトは散々な目に遭っていた。
「まったく…。デリカシーの無い男は困る。そうは思わないかガブラス」
「あぁ、そうだな」
ガブラスはこれ以上ドレイスを怒らせないよう、適当に話を合わせていた。
翌日、昨夜の騒ぎを知ったジャッジマスター達が会議場でゼクトを哀れむ目が集中し、
彼は居た堪れず、終止赤い顔で俯いていた。
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帝国の施設がこんなにしょぼいハズ無いと思われます。
単にドレイスはガブラスには覗かれても平気、というネタです。
ゼクトとドレイスは同い年ということで、いい口ゲンカ仲間だといいです。