休日、むかい風の路地にて

旧市街地。
アルケイディス郊外にまで来るとジャッジ姿でもなければ私服姿のガブラスの正体に気付く者も居ない。 そもそも、他人の事に興味がある人間も少ない。

ガブラスは久々の休日にここに訪れ、高台に座り込んで何気なしに足をブラブラさせていた。 なにも好き好んでこんなところにいるわけではない。 昨夜、ドレイスの私室にあるメモを置いてきた。

『明日、夕刻にむかい風の路地にて待つ』

特定の時間を指定をしなかったのは、本日も任務に出ているドレイスがいつ帰還するのか未定であったからだ。つまり、夕方になれば市街地でずっと待ってるから仕事が終わったら来いよ、いう意味だ。

全くと言って良い程無い休みをこんな所で時間を潰すなんて、とガブラスは自分に呆れていた。 だが少しでも自由になる時間があるのなら、ドレイスと一緒に過ごしたかったのだ。 何時からこんな気持ちを覚えるようになったのか。 ただ、彼女を待つ時間に胸が逸り、焦がれる。 それに増して、少し不安を感じてきていた。 自分のあのメモであの相手に『デートに誘ってるんですよ』という意図に気付いて貰えるのだろうか?


「…待たせたな」

それがドレイスの声だと気付き、振り返ったガブラスはすぐ顔を曇らせた。

ガチャリ。
任務帰りなのだろう。いつもの全身鎧姿で彼女は立っていた。
ガブラスは溜息を吐き、

「その格好では目立ってその辺を歩き回ることもできないではないか。 卿は俺がどういう意図で誘ったのか気付かなかったのか?」
「あの文面から、ここで極秘任務があるから自分の仕事が終わったら手伝え、という内容かと思ったのだが」

きっぱりと言うドレイスはさらに付け加えた。

「卿。以前から思っていたが、文章が簡潔すぎるのだ。あれでは相手に思いが通じないぞ?」
「では俺の気持ちにも気付いてくれてないのか?」

ドレイスはふうっと息を吐いて苦笑した。

「分かった。折角卿が作ってくれた時間だ。付き合おう」

やれやれと両手を挙げる彼女に、その格好でか?と聞くと

少し待て、と 鎧をごそごそ脱ぎ始め、ジャッジが普段着ている黒のアンダースーツの格好になった。
鎧はどうするのだろう?
まじまじとガブラスはその様子に見入っていた。 ドレイスは自分の鎧をコンパクトにまとめるとその辺りに転がっていた大きめの麻袋に押し込んだ。

「あぁ、ちょっとそこの」

丁度通りかかったシークに

「これを帝国のジャッジ・ドレイスの所にまで持っていってくれないか?ちゃんと礼はするから」

な!
ガブラスはその突拍子もない行動に驚き、つい大声を出してしまった。

「何言ってるんだ!そのシークがおまえの所に入れて貰えると思うのか? 追い返されるのがオチだ」
「大丈夫。ちゃんと私の筆跡で紹介状を書く。 それと我が第4局には相手がシークだと言って追い返すような輩はおらん」

ドレイスはガブラスの言葉に少し顔を顰めてスラスラと紹介状を書く。
では頼んだ、とドレイスはシークに手紙と鎧を押し付け、その手に金が入っているであろう袋を手渡した。
…あの量は!
ガブラスはその袋の大きさに顔を青くした。

「わぁ!ありがとうモ!これで故郷に帰れるモ!!」

シークは大喜びで荷物を運んで行った。
それを無言で見送るガブラスとにっこり微笑むドレイス。

「ドレイス…。一体いくら渡したんだ?」
「今持っていた全財産だ」

呆れるガブラスにドレイスはいけしゃあしゃあと言い切った。

「そういう訳だから今日は卿に奢ってもらうぞ」

ドレイスはそう言ってガブラスの手を取って引っ張った。 呆れながらもドレイスの楽し気な表情を見ると、ついつい愛おしくなってしまう。

これが惚れた弱味ってやつか。
世の何人もの男達が感じたであろうその言葉をガブラスも例に洩れず心の奥で呟いた。


「ドレイス…。何処に行きたい?」
「卿の居るところならば、どこへでも」



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