隣の素敵な女の子3


「パンネロ、心配するような事なかったんじゃない?」
「うん。 そうね」

アーシェの言う心配とは件のご近所付き合いのことだ。

歓迎会の行われたフランの部屋はとても落ち着いていて、 ほんのり森の香りがした。 例えて言うならば、雨に濡れて霧に包まれた森林のなかで 深呼吸したときの感じだろうか。 調度品も彼女の趣味であろう、木目のアンティーク家具で 揃えてあり、上品な誂えのものばかりであった。 アーシェとフランは家具の趣味で意気投合したらしく、 すっかり仲良くなっていた。

「という訳でね、パンネロがここでの生活に不安を抱いているらしいの」
「そう。誰もが周りの環境が変われば感じることだわ」
「あ〜! アーシェったらもう話してしまったの?」
「いけなかったかしら? 何かあればフランに相談すればいいじゃない」

フランは優しい瞳でパンネロを見ているけど、 パンネロの心配=深い仲らしいバルフレアが疑われているということで、 あまりいい思いをしないだろうと話すつもりはなかったのだ。

「ここでの生活以外の事でも何かあれば言ってちょうだい」
「あ…。は、はい!」

フランの諭すような表情を見ていると同性であっても舞い上がってしまう。 パンネロのような年頃の女の子なら、 一度はこんな年上の余裕のある女性に憧れるものだろう。

女3人が盛り上がっているところに、 少し離れたところから躊躇いがちに声が掛かった。

「皆、鍋が出来たから食べてくれよ」
「は〜い!」

バッシュが適当に具を見繕って腕に入れてきてくれたようで、 見るとお盆を手にし、そこには3個のお椀が乗っている。 おじさんのお盆を持つ姿が何とも可愛らしく見えて、 女性陣はクスクスと笑い合った。

「おいバッシュ、鍋はいいけどよ。 さらにもんじゃ焼きまで用意ってどうよ? 合わねぇだろ?」

鍋の横にある鉄板をゆび指し、バルフレアがふて腐れていた。

「あ、以前私が好きだって言ってたの、覚えてくれてたんですね」

パンネロのセリフにふと我に返ったバルフレアは

「なんだ、そうだったのかお嬢ちゃん。 今度、ウマイ店に連れていってやるよ」

気の変わりが早い彼に皆が声を出して笑い合った。


「そういえば、もう時間も遅い。 ヴァンは今日どうするつもりかね?」
「はんへほひ、ほへへほはふ」
「フフ、失礼。食べ終わってからでいいよ」

バッシュが振り向いて話し掛けたところ、 ヴァンは食べ物で口一杯にしてフガフガ言っていた。

「もう! ヴァンってば下品だよ」
「悪い、悪い! 今日はパンネロの部屋に泊めて貰うよ」

聞き捨てならねぇな、とバルフレアは憤慨しながら

「幼馴染みとはいえ若い女の部屋に泊まるなんざ十年早いぜ、ヴァン!」
「じゃあバルフレアが泊めてくれるのかよ?」
「バカ言え。美女ならともかく、なんで俺が ヤローと夜を過ごさなければならねぇんだ?」
「ちぇ。分かったよ、バッシュん家に泊まるから」
「私は構わないよ。 弟も居るから少し狭いがな」
「へぇ〜! バッシュ弟居るの? 見てみたい」
「そろそろ仕事から帰ってくるよ」

すっかり『友達』になってるバッシュとヴァンの様子を バルフレアが面白くなさそうに見ていた。 そんなバルフレアにフランがそっと耳打ちする。

「…あなたも素直に仲良くしようって言えばいいのよ」
「は!俺がバッシュにか? 冗談いうな」
「いつも言ってるじゃない。あなた、顔に出るのよ」

フランには適わないらしいバルフレアはムクれて黙り込んだ。

「すいません、ヴァンがお世話になります」

やはり周りの目もあることからバッシュに世話になるしかないと、 パンネロはバッシュにぺこりと頭を下げた。

「気にしなくていいよ。 明日、彼が帰る際にまた声を掛けるから」
「じゃ、パンネロ。また明日な!」

バッシュの部屋は必要最低限の家具しかなく、 よく整理が行き届いていた。 ヴァンは感心して部屋をぐるりと見回した。

「へ〜。おっさんの部屋にしては綺麗だな」
「2人暮らしには狭くて、物が置けないんだよ」
「だからこれ以上人口密度が高くなるのは、感心せんのだがな…」

最後のセリフは双子の弟の方だ。
狭い部屋で暫く3人の視線が絡む。
沈黙を破ったのは双子の兄の方。

「しかしだな、ノア。 ここでヴァンを知らんふりするのは可哀想だ」
「休息時間を他人に占領され、 疲れが取れなくなる俺は可哀想ではないのか?」
「またそんな事を言って…。 すまないな、ヴァン。 弟は照れくさくてこんな態度を取ってるんだよ」

そうなのかな、と首を捻りつつも深く考え込まないタイプのヴァンは すぐに別の思考に移ったようだった。

「なぁ…。俺今日ドコで寝たらいい?」
「布団は2人分しかないんだ。 まぁそれ以上は敷けないというのが正しい言い方だが…。 我々が2人で使うから、ヴァンは1人で使うといいよ」
「え〜? 兄弟ベットリで寝るのか? なんか気持ち悪いなぁ」

誰のせいだと憤慨するノアを制しバッシュが提案する。

「では…私と一緒でもいいかな?」
「うん、それがいい」

ヴァンはそう言うがいなや、バッシュの布団に潜りこんできた。 バッシュはその子供っぽい行動に目を細めて微笑み、 ヴァンが潜り込んで団子になった部分をポンポンと叩いてやった。 その様子を見てノアはフンと不満そうな表情を見せたが、 何も言わず自分の布団を被った。

「なぁ、バッシュ。 眠くなるまで何か話そうぜ」
「うん? 何か聞きたいことでもあるか?」
「そうだな。 なんで2人はその歳まで独身なの?」
「…痛い質問だな。 縁がなかったと言うべきか」
「今は付き合ってる相手とか居ないのか?」
「残念ながら…。 弟は同僚にいい人がいるんだが…」
「バッシュ!! いらんコト言うな!」

隣の布団から聞こえてきた怒鳴り声に、 バッシュとヴァンは顔を見合わせてクスクスと笑った。

2人は声を顰めて朝方まで他愛ない会話で盛り上がった。 お互い歳の離れた相手と話すことがなかなか無かったので、 思い掛けない『お泊まり』はいい機会になったようだった。

ヴァンへ

そっちに帰ってもう一ヶ月位になるけど、元気にしてる?

ヴァンがこっちに来たときは、無理にでも連れて帰ろうって顔だったけど、帰るときにはいつものヴァンだったね。ヴァンもここの人達に会えて安心したんでしょ?学校にもこの辺りの地域にも慣れてきたよ。でも、食べ物はダルマスカの方が好きかな…。


毎朝、私が出ていくときに、何故かバッシュ小父様とバルフレアさんが踊り場の所でお話してるの。あれ、井戸端会議ってやつかなぁ。今度こっそり何話してるか聞いてみよかな…(2人には内緒だよ!)

いつも2人が「いってらっしゃい」て声掛けてくれるの。それで今日も1日頑張ろうって思えるんだ。なんだかんだ言って仲良いんだよ、あの2人。


あ、隣の双子の小父様のことだけど。
ヴァンがそっちに帰る前に話してたじゃない?バルフレアさんはバッシュ小父様が弟に執着してるって言ってたけど。

ヴァンが言ってたように、私も逆だと思った!弟さんの方が想いが強いような気がするな。

弟さんで思い出したけど。この前ノアさんが彼女を連れて来てたときに、バッタリ玄関ホールで会ったの。彼女の人、綺麗なお姉さんだったよ。

彼女さんは普通だったのに…。ノアさんはすごく顔を真っ赤にさせて大慌てしてたの。彼女連れてるくらい別に恥ずかしい事じゃないのにねぇ?いつもムスッっとしてるのにその様子を見てつい、『可愛い』って思っちゃった。そういうギャップがノアさんの魅力なのかもね!


そうそう、アーシェがフランの部屋を気に入ったみたいで、そこでよく3人でお茶するんだ。お茶の種類に詳しくなっちゃったよ(ちょっと大人でしょ?)

この間、フランに痴漢撃退方法教わったの。フランってすごく強いんだよ。今度実地で教えてあげようか。ウフフ。

気になってたフランとバルフレアさんて恋人じゃないみたい。嬉しいような、がっかりなような…。でもお互い認めあっていてとても素敵な関係なの。ヴァンは男女間の友情っていうか2人みたいな関係って成立すると思う?あれぐらい深く知り合うと恋愛関係になってしまうってアーシェは言ってたけど。


そういう訳で、今の所ヴァンが心配するようなことは起こってないよ。隣の素敵なお兄さんと小父様に囲まれて楽しく過ごしています。…って言ったら、ヴァン少しは妬いてくれるかな?

私もお隣さんに素敵な女の子って思われるように頑張るゾ!


ではではこの辺りで。アルケイディスよりパンネロでした!

 P.S 今度来るときは事前に連絡入れるんだよ!



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