帝都に住む少年の話より

よぉ、お前久し振りだな。
最近見かけなかったじゃないか。どこ行ってた?

都市部か…。またスリでもやってたのか?
ジャッジにでも捕まったらお終いだぞ、お前。
気を付けた方がいい。
少しばかりのギルの為に自分の命を無くすなんて割りに合わないぜ?

あぁ、ジャッジマスターの話?
そうか、あの時お前は居なかったんだな。
俺含めてここいらの子供は大抵見てるんじゃないか?

そうさ。先週、この旧市街地に現れたんだ。
…お前もあいつらの事、嫌ってたよな。
誰もその時の事話してくれないって?
そりゃそうだろうな…。

聞いてもつまんねぇぞ。

分かったよ。 一度しか言わねぇからな。

あれは今日みたいに空がどんよりしててさ。
何とも言えねぇ、気分の冴えない日だったさ。
今思えば、みんな機嫌悪くて気が立ってたんじゃないかな。

ある情報屋が一人のジャッジマスターに追われてたんだ。
マスターが出てくる位だから、相当の情報掴んだんじゃねぇかな。

そうそう、逃げてたのはジュールさんさ。
たまに俺達に声掛けてくる事があるから、お前も顔くらい知ってるだろ?

俺達に仕事頼んでくる事もあってさ。
仕事したらちゃんと見返りに食べ物とかくれるだろ?
なんだかんだ言って、俺達に良くしてくれるから、 結構信頼してるんだ、あの人の事。 俺もここの人達の役に立てるような情報屋になりたいな〜、 なんて思ってるんだ。

それに比べてさ、ジャッジマスターってソリドール家しか守らねぇじゃん? 一応、お国の為に戦ってるって事になってるけどさ。 毎日ひもじい思いをしてる俺達には無関心だろ? そう、あのおっそろしい見た目もあって好きじゃなかったんだ。
…今は?
まぁ続きを聞けよ。 …少し話しがズレたな。

そんなことでさ。 逃げてるのがジュールさんで、追っかけてるのがジャッジマスター。 当然、ジュールさんを応援するだろ?

まぁ、ここいら旧市街地はジュールさんの庭みたいなモンだ。 ここに逃げ込んだのは、撒ける自信があったからだろ。 思ったとおり、トラップを仕掛けてたんだ。

ジャッジマスターは『ストップ』に掛かったんだ。 あの一定時間動けなくなるアレな。 ジャッジとまともに戦っても勝てないのは分かってるからな。 どんなに強いヤツでもアレに掛かったら駄目だ。 その間にジュールさんはとんずらさ。

今では後悔してるけど…。 そのとき調子に乗ってたんだ、俺達。

いつも澄ました様子でソリドール家にしっぽ振ってる連中が、 目の前で動くこともできないんだぜ? ずっと壁の後ろで様子を伺ってたんだけど、 何もできやしないと分かると…。
なんかイライラした気分を晴らしてやろう、なんて考えたんだ。

子供らみんなでさ、ジャッジマスターを取り囲んだんだ。
…後先考えてないだろ?で、日頃溜まった鬱憤を晴らしたのさ。

「ジャッジマスター、俺らの味方、ジュールさんを虐めるなよ!」
「お前等戦う事しか出来ないくせに、威張ってるんじゃない!」
「皇帝だけじゃなく、弱い者も守ってやれよ!」
「戦争に使う金があるなら、ここの子供や年寄りにパンでも買ってやれ!」

終いには手近な小石をぶつけだす奴も出てきてさ。
まぁ、あの鎧に当たっても跳ね返るだけで、 ジャッジには屁でもなかっただろうけどな。

最後にある奴がどえらい事をしやがったんだ。 ジャッジって鎧で固めてるだろ? 兜も被っててさ。 普段、中身が見られる事なんてない。 多分、皇帝宮以外で外す事が禁止されてるんじゃないか?

そうさ。 ある奴が「中、見てやろーぜ」なんて言い出したんだ。 まさか誰もああだとは思わなかっただろうな。
え、もったいぶるなって? あの鎧の中、どんな奴だったと思う?

あの大層な鎧の中身な。
女の人だったよ。小さい顔で白い肌の綺麗なお姉さんだったんだ。

…絶句だろ? その時に居た子供ら全員、今のお前みたいに蒼白だった。 みんな、厳つい顔の凶悪なおっさんが出てくると思ってたんだ。

しかもな、泣いてたんだ、その人。 声も立てずに。 もちろん泣かせたのは俺達さ。
兜の隙間から小石が入ったんだろうな。 頬に小さな傷が出来てて、少し血が出てた。 みんなその事実に脳が停止状態さ。

「ど、どうしよう」
「女の人泣かせちゃったぞ…。父ちゃんに怒られる!」
「怪我させちゃったよ…。どうする?」
「どうするって言われても…!!」

みんな想像もしてなかった事に震え上がった。
自分らがやってしまった事が急に恐ろしくなっちまったんだ。

「お、俺知らない! 本当はこんな事したくなかったもん!」
「あ、こら! 自分だけ逃げるなよ!」

みんな蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
静かに泣くその人を残したまま。

俺も震えてたよ。 でもやっぱそのままに出来ないだろ?
投げ出された兜をその人の足元に置いてさ。 怪我させたし、ちょっと残ってた手持ちのポーションを 兜の隣に置いてきた。 で、そのまま一目散に逃げたよ。

俺も怖かったんだよ。 あんな事した俺達を『ストップ』が解けたあの人がどうするのか。 俺も自分の身が可愛いかったんだ。

覚えているのはポーションを置いて、チラっ見上げたときに見えた顔。 少し寂しそうに微笑んでたよ。 そのとき「あぁ、悪い事したなぁ」って思った。

それだけさ。 その後暫く経って戻ったら、ジャッジは居なくなってた。 どうしたのかは誰も見て無いけど、ジュールさんは無事に逃げられてたよ。

お前、その時居なくてよかった、と思ってるだろ。

ジャッジってさ。 機械みたいに命令されて動くだけの冷めた連中だと思ってたけどさ。 ちょっと考え変わったよ。

少なくてもあの人、あのとき寂しそうだったもんな。 ジャッジでも同じ人なんだから感情くらいあるよ。 今度、もし会う機会があれば…ちゃんと謝りたいな。

俺さ、将来情報屋になるかどうするかはまだ分かんないけどさ。
女の人を泣かせるような男にはなりたくないって思った。



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